Ascending Inferno

【BitSummit the 13th】平穏な毎日を守り抜け! 『コミュ障キリンの一週間』は内向的な人間に寄り添うアドベンチャーゲーム

BitSummit the13th出展作品のプレイレポート

ライター /

重要なポイント

2025年7月18日(金)~20日(日)にかけて、京都・みやこめっせ(京都市勧業館)で開催されたインディーゲームイベント、"BitSummit the 13th"(以下、ビットサミット13)。そのイベントに出展された『コミュ障キリンの一週間』のプレイレポート。内向的な人間ならきっと共感できる、誰にも話しかけられずに日々を過ごすための謎解きアドベンチャーゲーム!

ビットサミットの出展タイトル一覧を眺めていたとき、ある作品が筆者の目に飛び込んできた。タイトルは『コミュ障キリンの一週間』。開発は、ロサンゼルスを拠点とするインディ―開発チームのQuail Button LLC

なんというタイトルだろう、見るだけで胸がざわつく。気がつけば、ページを開き説明文に目を走らせていた。

キリンは自分の生活をなかなか気に入っています。彼の趣味は、ローファイ音楽を聴くことや、抹茶を飲むこと、多肉植物を育てること、そして俳句を詠むこと。生活する上で彼が困っている点はただ一つ、人付き合いへの不安がありすぎて、誰かと会話しようものなら頭が爆発してしまうのです。幸い、そうした事態は今のところ起こっていません。栄えある「世界一フレンドリーな街」に輝いたフレンドリーシティーの住人たちは、おしゃべりがひどく大好き。でもキリンは抜き足差し足で歩いたり、注意をそらしたりして、そんな彼らを上手く避ける技を身につけているのです。

(STEAMの『コミュ障キリンの一週間』のページより引用)

この時点でもう「わかる……!」と叫びそうになった。筆者は、性格診断をすれば間違いなく"内向的"と分類されるタイプである。

ひとりで過ごす時間が何より好きだし、誰にも邪魔されない休日ほど贅沢なものはない。好きな音楽を聴いて本を読み、好きな場所に出かけて好きなものを食べて眠る。それだけで人間は満たされるはずなのに、時に平穏は脆くも崩れ去る。

洋服屋の店員に声をかけられたり、ひとりご飯を食べていると隣の席の誰かに世間話を振られたり、思いがけず再会した知人に長話を仕掛けられたり……。もちろん、話しかけてくる人が悪いわけではない。むしろ彼らは親切で、好意的ですらある。でも、どうしても「いまだけは放っておいてくれ」と心のなかで願ってしまう時があるのだ。

同じような気持ちを背負ったキリンが、世界一フレンドリーな街でサバイブしようとしている。内向的な同志として、この穏やかな日々を守らねばならない。そう強く感じた私は、ビットサミット初日、一目散に『コミュ障キリンの一週間』のブースへと向かった。

癒し系ビジュアルで挑む、静かなる逃亡劇

ブースには、キリンの可愛らしいイラストが複数展示されていた。キャラクターや街の住人たちも、どこかユルくて丸みのあるビジュアルで、思わず笑みがこぼれるような雰囲気が漂っている。

まさに内向的な私にとって、ビットサミット初日の取材は少なからず緊張を伴うものだったが、このブースではその肩の力がふっと抜けた。

スタッフの方々もとても親切で、日本語バージョンのゲームも用意されていて、ひと安心。穏やかな笑顔と丁寧な説明に、心がすっと癒されていくのを感じた。

が、しかし。その時の私はまだ知らなかったのだ。この優しさに包まれた空間の奥に、コミュ障にとってはあまりにも過酷な会話回避生活が待ち構えていることを。ユルさに油断したその先には、ステルスの緊張感が潜んでいたのである。

コミュ障キリンのTODO

©PINION/©Quail Button LLC

プレイヤーが操作するのは、世界一フレンドリーな街"フレンドリーシティー"に住むキリンだ。

目標はただひとつ、誰とも会話せずに一週間をやり過ごすこと。ゲームシステムはポイント&クリック形式で、マウス操作によってキリンを動かしながら日々のタスクをこなしていく。

タスクといっても、たとえば"電車を降りる"、"缶抹茶を買う"、"フォーマルな写真を撮る"など、どれも日常的でシンプルに見える。

だが、そこには大きな罠がある。街の住人たちは、キリンが目に入るや否や、怒涛の勢いで話しかけてくるのだ。まさにマシンガントーク。道を歩くだけでも油断はできない。

しかも話しかけられた瞬間、キリンは顔を真っ赤にして混乱し、最終的には爆発してしまう。これは比喩ではなく、実際にキリンの頭が爆発し、ゲームオーバーとなってしまうのがなんともシュールでたまらない。

「なぜ主人公がキリンなのか?」という疑問をブースにいた外国人スタッフにぶつけてみたところ返ってきた答えはこうだった(※翻訳アプリでのやり取りのため、実際のニュアンスとはやや異なる場合があります)。

「キリンは見た目が目立つため、隠れたくても隠れられないから面白い。そこに立っているだけで注目を集めてしまう」と。

確かにそうだ。背は高く首は長いキリンは、街中を歩けば目立つに決まっている。なるほど、選ばれた理由としてこれほど残酷なものはない。同じく人目が苦手な者として、残酷な運命を生きるキリンに対して胸がきゅっと締めつけられた。

見つかれば話しかけられる。話しかけられれば爆発する。だから、住民に話しかけられないように動き、さまざまなギミックを活用しながら1日を乗り切る。可愛らしい見た目に騙されてはいけない。これは、心の静寂を守るための、壮絶なステルスゲームだったのだ。

爆発なくして前進なし、何度でも挑戦して、平穏をつかみとれ!

そして本作には、本格的な謎解き要素が組み込まれている。いわゆる"死にゲー"に近い構造であり、失敗を前提としたトライ&エラーが求められるのだ。フレンドリーシティーの住人たちは、むやみやたらに話しかけてくるだけではない。ときに、マシンガントークのなかから得られるヒントが、ゲームを進める鍵になっている。

つまり、キリンの平穏を守るためには、1度その平穏を壊す必要があるということだ。なんとも皮肉な構造である。

たとえば"証明写真を撮る"という、何気ないタスクに挑もうとすると、ブースに待ち構えるおしゃべりカメラマンにあっけなく話しかけられてしまい、一撃でキリンの頭が爆発。即ゲームオーバーだ。

だがその会話内容をよく聞くと、"コピー機のまえに立ち尽くしている男・ロバート"と、カメラマンとのあいだに何かしらの繋がりがあることがわかってくる。キリンは今度はロバートに接近し、彼の悩みを探る。そして両者の会話内容を照らし合わせることで、このふたりが会話を始めれば、カメラマンは"写真ブースを離れる"という仮説が立つ。

あとは呼び鈴やディスプレイなどのステージに用意されたギミックを操作してふたりを邂逅させれば、キリンが話しかけられる危険性はなくなる。

カメラマンがブースを離れた隙に、キリンをそっと証明写真ブースに導き、椅子やカメラを移動すれば無事に撮影が完了、ステージはクリアとなる。

ステージが進むごとにギミックは複雑化していき、パズル的思考力が問われるようになる。もちろん住民に話しかけられるたびに、キリンは爆発してしまう。だが諦めずに、何度も爆発し再挑戦することが大事だ。なんともかわいそうだが、これがキリンの平穏な日常のためでもあると心を鬼にしてプレイを進めていった。

内向的な開発者が作った、内向的な人のためのゲーム

プレイを進めるうちに、同じ内向的な者としてキリンに対する愛着がどんどん増していった。会話を避けるために必死で動き回るその姿が、他人事とは思えなかったのだ。

開発者に「私も内向的なので、このゲームがとても好きだ」と率直に伝えたところ開発の背景について話を聞かせてくれた。

「チームのメンバーはふだんアメリカで生活しており、周囲には外交的な人が多い。そのような環境のなかで、内向的な人の気持ちに寄り添うゲームを作ることに意味があると感じ、本作の開発に至った」とのことだった。

©PINION/©Quail Button LLC

スーパーの店員も、一度キリンを目にすると怒涛の勢いで話しかけてくる。

フレンドリーシティの住人たちは、日本ではなかなか見かけないレベルで積極的に話しかけてくるが、「アメリカでは本当にあれくらい話しかけてくるのか?」と尋ねてみたところ、「実際とても友好的だ、お店などで話しかけられることも多い」との答えが返ってきた。

なるほど、内向的な人にとっては、まさにハードモードな日常である。このゲームは、そうした"フレンドリー"の渦中で日々を過ごしている開発者たちだからこそ生まれた作品なのだと強く納得した。

そして、そうした想いから作られたゲームをプレイできることを、何より嬉しく感じた。このゲームには、無理して人と話さなくても良いというメッセージが詰まっているように思う。人と距離を取り1人で過ごしたいときがあっても、それは悪いことじゃない。『コミュ障キリンの一週間』は、そんな静かな意志を持つ人たちに向けた、ささやかなエールのように感じた。

キリンの日々を、全力で守り抜きたい!

キリン

今回、ビットサミットでの試遊、そして開発者からお話を伺ったことで、自分のようにコミュニケーションが得意でない人間にも「それでいいんだよ」と言ってもらえたような、心にそっと光が差し込むような気持ちになった。世界のどこかに、自分と同じように気を張りながら生きている仲間がいるという事実が、思いがけず大きな励ましになった。

本作のリリースは2025年中だそうだが、いまから待ちきれない。"コミュ障"の同志たちにはもちろん、謎解きやパズルゲームが好きな人にとっても、きっと大満足の1本になるはずである。キリンの平穏な日々を守るために、私は喜んで知恵を絞り、何度でもやり直すつもりだ。

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