Ascending Inferno

【BitSummit the 13th】新感覚アドベンチャー『CultureHouse』で静謐なモダニズム建築に没入する

BitSummit the 13th出展作品のプレイレポート

ライター /

重要なポイント

2025年7月18日(金)~20日(日)にかけて、京都・みやこめっせ(京都市勧業館)で開催されたインディーゲームイベント、"BitSummit the 13th"(以下、ビットサミット13)。そのイベントに出展された『CultureHouse』のプレイレポート。静謐で作り込まれた世界観に没入する、一味違ったゲーム体験を味わえる唯一無二の作品。

筆者は、美術館や建築が好きだ。とくに、長野県や群馬県などの山中にひっそりと佇む美術館へ足を運ぶと、不思議と心がリセットされる。あの時間が永遠に続けばいいのに……と、何度思っただろうか。そんな願いを、まさかゲームで叶えられるとは思ってもみなかった。

今回のビットサミットで、『CultureHouse(カルチャーハウス)』(開発元:futurala/パブリッシャー:Kodansha)という特別な作品に出会ってしまったのだ。

本作は、20世紀モダニズム建築のなかで生物を培養しながら暮らす、没入型アドベンチャーゲーム。ゲームというより、美しく静謐な空間に滞在し、小説のような世界観を楽しむ……そんな贅沢な時間を生きているかのような不思議な体験が味わえる作品だ。

昨年、"メディアハイライトアワード ファミ通賞"を受賞したこの作品は、こだわり抜いたキャラクターボイスの追加という進化を遂げ、今年もビットサミットに姿を見せていた。

デペイズマン(意外な組み合わせ)の手法を採り入れた、あまりに新しいゲーム体験。その一端を紹介したい。

『CultureHouse』のブース
©PINION/©futurala

ブースにはPC用モニターと大きなスクリーンが! スクリーンの方でもプレイができたのでより臨場感を味わうことができました。


メモ

デペイズマン
©Artpedia All Rights Reserved./画用引用:Artpedia

ルネ・マグリット/『大家族』(1963年)。

デペイズマン(dépaysement)とは、フランス語で"異化"や"場違い"といった意味を持つ美術用語。シュルレアリスム(超現実主義)の技法のひとつで、本来ならいっしょに存在しないはずのもの同士を組み合わせることで、見る者に違和感や新鮮な驚きを与える手法だ。代表的なのは、上記のようなマグリットの絵画(『大家族』)。見慣れたもののはずなのに、組み合わせによって非日常的な風景へと変貌する。それがデペイズマンの魅力であり、核心である。

『CultureHouse』におけるデペイズマンは、現実の建築や風景が持つリアルさと、謎の生物培養や終末世界という非現実的さが、同じ空間のなかで違和感なく同居している点にある。ありふれた美術館や研究所のような風景で、どこか異質な生物を育てるという設定は、まさにデペイズマン的な美学を体現しているといえるだろう。

静かで不穏な声──女性キャラクターが導く終末世界

プレイヤーは、失踪した科学者が設計した住宅兼研究施設"カルチャーハウス"に雇われた研究員となる。山奥の静寂な建築の中で7日間を過ごし、謎の生物"ジェニオ"を培養していくというストーリーだ。

ゲームプレイを開始し、まず目が覚めると、ひとりの女性キャラクターが契約書を差し出してくる。これが本作のチュートリアルとなるのだが……このキャラクターの声が、とにかく良い。美術館の音声ガイドのように落ち着いていて、どこか耳に馴染む。なのに、落ち着きすぎて不穏さすら感じてしまうのだ。ぜひチュートリアルで体感してほしいポイントだ。

この声には、開発者・フツララ / futuralaさんの強いこだわりがある。「声優はあえてナレーション経験のある人を起用した」という。ご本人いわく、「アニメや多くのゲームのような抑揚のある演技は、この静謐な世界観にはそぐわない」と考えたそうだ。

あえて感情を抑えた、少しAIのような響きを持つ声。その声によって、プレイヤーの心には静かな不安が生まれる。まさに"真面目で優しそうだけれど、どこか掴み切れず信用できない"女性なのだ。この終末世界にこれ以上ないほどに、ふさわしい案内人だと感じた。

金属採取

©PINION/©futurala

主人公はこの女性に導かれながら、生物培養や金属採取、訪問客との会話や奇妙な事象の観察……といった謎めいた日々を重ねていく。そして謎の生物・ジェニオの育成を進めていくうちに、穏やかだった日常が少しずつ奇妙なものへ変容していく。

実際に会場でもプレイしたのだが、ゲーム内のカメラを使って撮影することで金属を採取できるシステム(上の画像)はとてもユニークで、何度も撮影してしまった。カメラを使って、建物の周りにある違和感のあるもの(球体や空飛ぶ豚など)を撮影すると、境界結晶や金属などのジェニオの育成に必要な物質を採取することができる。そして、写真の構図や撮りかたで採取量が変わるそうなのだ(被写体が真んなかにしっかりと映るなど、写真の構図が良いほど、採取できる量が増える)。きっとカメラ好きにもたまらないはずだ。

ただ歩くだけで満たされる──柱一本、窓からの景色まで、こだわりが詰め込まれた世界観に絶句

研究棟

そして事前に、本作の公式サイトで見てはいたが、実際にゲーム内を歩いてみると世界の美しさに圧倒されてしまう。コンクリートとガラスで構成された建物、その向こうに広がる緑の山々と青空。まるで大好きな長野の美術館にいるような錯覚を覚えた。

ビットサミットの会場で、開発者にそう伝えると、「舞台設定は東欧をベースに、信州や東北っぽさも加えている」とのこと。登場人物の名前が外国人風だったり、架空のヨーロッパのような世界でありながら、日本の原風景も同居する不思議な空間。それは東北の山中を舞台にしつつも、「どこか異国感が漂う宮沢賢治の物語からも着想を得た」という

本作の美しい建築は、「ヴァルター・グロピウスなどの初期モダニズム建築がモチーフ。日本の建築でいうと、品川の原美術館や代官山ヒルサイドテラスなどがイメージソース」だという確かに、建物内を歩いているとどこか現実離れした印象のなかにも、実際に存在していそうな雰囲気を感じる。

また本作において、住宅棟と研究棟でデザインを大きく変えているのもポイント。住宅は白をベースとしており丸い柱を中心に構成される一方、「研究室はコンクリート打ちっぱなしとし、建築家・安藤忠雄のエッセンスも意識している」という。

建築や背景にこだわっている理由を伺ったところ、「ゲームではキャラクターやモーションにこだわることは多いが、背景が軽視されている部分もある。だから本作では、歩きながら目にする柱の一本、窓から見える山並みにまで徹底してこだわっている」と開発者は話す。

その言葉どおり、歩いているだけで心が満たされる、まさに没入体験だ。建築好きの自分としては、思わずチュートリアルを進めるよりも建物の探索に熱中してしまった。歩き回るだけで何時間も過ごせそうな程に精緻かつ美しい空間で、最後に『CultureHouse』のブースを離れる時には名残惜しさでいっぱいだった。

"物語"はわかりやすくなくていい──カフカから着想を得た、開発者の哲学

地図
©PINION/©futurala

ゲーム内の地図も図面のようでワクワクする。

そんな本作、プレイを進めると世界の滅亡(もしくはプレイヤー自身の死)によって一度幕を閉じることになる。その後、再度カルチャーハウスを訪れた1日目の朝からスタートするが、プレイヤーの選択によってジェニオは前回とは異なる姿に成長するそうで期待が膨らむ。

エンディングとリスタートを繰り返しながら、カルチャーハウスでかつて起きた出来事や、滅亡へ向かう世界とジェニオを繋ぐ謎に迫っていく。「プレイ時間は5〜6時間を想定している」とのこと。短すぎず長すぎず、この作品らしい密度のある時間が過ごせそうだ。

また物語のなかでは、「カルチャーハウスそのものを設計した人物の存在も明かされていき、設計図や建築模型を実際に眺められる」こともできるそうで、建築好きとしてはたまらない。単に物語を追うのではなく、建築そのものに没入できる体験が用意されていることに心が躍った。

本作は「女性プレイヤーや、建築・インテリアが好きな人に支持されている」そうだ。その言葉を聞いて、思わず頷いた。ふだんゲームを遊ばないような層が、この静謐な世界に惹き込まれるのだろう。美しいものが好きな人、静かな空間で自分のペースで過ごしたい人。そうした人々にこそ、このゲームはきっと深く刺さる。

© futurala

空に豚が浮いていたり、謎の球体があったりと、言葉では説明できない不可思議な風景が点在する。

また、こんなにも建築や空間に対するこだわりが感じられるがゆえ、開発者は建築を専門的に学んできたのだろうと勝手に想像していた。だが、その予想は良い意味で裏切られた。

「じつは建築はあくまで趣味で大学では文学を専攻していた」というのだ聞いた瞬間、驚きと同時に妙な納得感が胸に広がった(筆者自身と同じ大学・同じ学部だったことも判明し、思わず話が弾んでしまったほどだ)。

本作の独特な物語世界には、文学部出身ならではの感性が確かに息づいていると感じた。宮沢賢治の物語から着想を得た世界観はもちろん、「シナリオには(小説家)カフカの影響も色濃い」というわけのわからない状況のなかで、理由もわからぬまま作業を繰り返す主人公の姿。カフカ的な不条理と静けさが、このゲーム全体に漂っている。

オブジェクト

「最近のゲームは、わかりやすさが良しとされる。でも入り組んだことを伝える楽しさや、科学のなかに潜む詩情のようなものを描きたかったんです」と開発者は静かに語る。

わかりやすさや派手さを捨て、あえて複雑な設定や抽象的な美しさを大切にする。そんな姿勢こそが、『CultureHouse』の世界観に厚みと深さを与えているのだと深く納得した。

そして驚くべきは、このこだわり抜かれた世界観、建築デザイン、シナリオ、すべてをたったひとりで作っているという事実だ。まるで小説のようなゲーム空間を、自ら設計し、自ら物語を紡いでいく。まさに建築家であり、小説家であり、ゲームクリエイターでもある開発者の姿に、ただただ敬意を抱かずにはいられなかった。

文学と建築が交差する終末世界、カルチャー好き必見の一作!

静謐で美しい建築と風景。謎に包まれたまま進む物語。不安と美しさが同居する空間。

『CultureHouse』は、文学や芸術、まさにカルチャーを愛する人が没入できる、極上のアドベンチャーだった。山奥の美術館でひとり、静かに過ごすようなあの時間。早く手元で存分にその時間を味わいたい。現状リリース日は未定だそうだが、正式リリースが待ち切れない。

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