長所
- 舞台となる大学の美しい風景
- ボーカル曲を始めとする音楽全般
- オプション設定の豊富さ
- リアリティあるキャラクター描写(猫含む)
短所
- 何度も遭遇するバグ
- 選択の重要さを感じられないストーリー
- 高すぎる価格
『ライフ イズ ストレンジ』シリーズは、毎回異なる主人公が何かしらの超常現象を発現し、周囲との軋轢や自らのトラウマを乗り越えようともがく様を描いたアドベンチャーゲームだ。
その、シリーズ第6弾となる『ライフイズストレンジ ダブルエクスポージャー』が2024年10月30日に発売された。
今作は初代『ライフ イズ ストレンジ』(2016年)の完全続編であり、主人公も初代と同じマックス・コールフィールドである。初代のストーリーは、写真家志望の内気なオタク女子高生のマックスがある日、時間を巻き戻す力を得て、親友のパンク少女・クロエの行く末や、故郷に関わるいくつもの選択を迫られる……というものだった。
ふたつの世界を行き来するゲームプレイ
本作『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』は、初代の約10年後が舞台。マックスは写真家として成功し、大学で講師の仕事をしている。
新しい環境で友人や教え子ができたマックスだが、親友である詩人志望の大学院生サフィが何者かに銃撃され、殺されてしまう。サフィの死を受け入れられないマックスに、今度は並行世界を行き来する能力が発現する。マックスはその能力を使い、サフィを殺した犯人を捜すことを決意する……。
本作は、初代『ライフ イズ ストレンジ』よりもミステリー風味の強い作品となっている。さまざまな手がかりを集めて、サフィに恨みを持った人物や、大学が隠している秘密に迫っていくストーリーになっているのだ。
カギとなるのは、並行世界を行き来する力。(プレイステーション5では)L1ボタンを押すことで、サフィの生きている世界と、サフィが死んでいる世界を行き来することができるが、これは特定のポイントでしか使用できない。また、R1ボタンを押すことで、平行世界に置かれている物体や、その場所にいる人間などを感知し、会話を盗み聞きすることもできる。
これらの力を使い、他の講師のオフィスに忍び込んだり、警察の目を掻い潜って証拠品を盗んだりすることで、ゲームを進めていくことになる。とくにサフィが死の直前に撮ったカメラを、警察の目の前で奪い去るパートはなかなかヒヤヒヤした。
ただし『ライフ イズ ストレンジ』同様、本作もそこまで謎解きに歯応えはなく、ガイドのどおりの場所に向かって世界を行き来するだけの、すぐにクリアできるような問題(謎解き)しかない。頭を捻るパズルを求めている人は肩透かしを食らうかもしれないのでご注意を。
ゲームを彩る音楽と美術
ゲームシステムは良くも悪くもシンプルだが、音楽や美術については素晴らしいのひと言である。
舞台となるカレドン大学は、クリスマスに差し掛かっているところで、構内は雪景色に覆われている。芸術系の大学なので、いたる所に学生や先生たちの作ったモニュメントがあり、それらを見て回るだけでも面白い。
音楽も印象的で、穏やかで寂し気な曲が多く、重要なカットシーンはボーカルソングが彩ってくれる。歌手と曲名がキャプションで表示されるのも良い。
他には、オプション項目が豊富であるのも評価に値するところである。自殺や暴力的なシーンが流れるまえに警告を流すというものだが、トランスフォビア(多様なジェンダー観を否定する発言や表現のこと)が流れるまえにも警告を流せるようにできるという点がもっとも現代的であり、配慮の行き届いた開発がなされていると感じた。
気になるバグや粗の目立つストーリー
ただし、気になる点も多かった。
まず、(2024年11月上旬の時点で)バグが多い。筆者はプレイステーション5版でプレイしたが、セリフの消滅、インタラクト箇所の非表示、いないはずのキャラクターがいるなど、あらゆるバグに出くわした。ゲームの進行に差し支えるものもあったため、早急にアップデートしていただきたいポイントだ。
また、ストーリーについても評価し難い部分があった。
『ライフ イズ ストレンジ』同様、芸術性や創作の悩みについて語られるのは一貫している。『ライフ イズ ストレンジ』は写真芸術についての話が多かったが、今回は詩や小説といった文芸に関わる人物たちの悲喜こもごもが描かれる。そういったモチーフが好きな人はたまらないだろう。彼らのオフィスや私室にある小物はディテールが細かく、持ち主の性格を如実に表していて、それらを見て回るのは楽しい。
今回も学生というアンビバレントな世代を切り取り、彼らの悩みを上手い具合に切り取っているのは間違いない。講師たちもそれぞれに事情があり、人間味を感じる人々ばかりだ。
だが、マックスの描きかたについては褒めづらいところがあった。『ライフ イズ ストレンジ』で受けた心の傷が治っていないとはいえ、28歳とは思えないような幼さを感じてしまったのだ。
ゲームの進行上、他人のスマートフォンなどを覗き見するのはまだ許せるものの、学生と語り合うときの仕草や、終始怯えているような声音の演技(筆者は日本語音声で遊んだ)、そして、そもそも講師として学生に教えているパートがないなど、高校生の時分のマックスとさして変わらない印象を受けてしまった。
彼女がトラウマを克服するころには物語は終わっており、そのためにゲーム全体のストーリーがあったのだと言われるとそう捉えることもできるのだが、これでは、舞台が学生から講師に変わった意味がないのではないかと思ってしまった。現状では『ライフ イズ ストレンジ』と同じ展開をなぞっているだけであり、約10年も経ったということを感じさせる描写が足りていない。
マックスだけでなく、ストーリー全体に関わる問題も存在する。
そもそも『ライフ イズ ストレンジ』のラストシーンで、プレイヤーは「故郷を襲う嵐を止めるか、恋人(クロエ)の命を救うか」という選択を迫られる。本作の冒頭でも同じ選択があり、プレイヤーがどちらを取るかによって、キャラクターたちの会話や、スマートフォンのなかのメールテキストが変更されるのだ。
実質2倍のテキストを用意するという手間を踏んでいるわけだが、残念なことにクロエを選んだ場合でも、本作のマックスはもうクロエと別れたことになっており、せっかく助けた彼女が登場することはほとんどない。クロエが死んでいようが生きていようが、マックスはクロエがいないことについてウジウジ悩むのである。
これでは、せっかくプレイヤーが考え抜いた選択をないがしろにしているようなものである。それなら、そもそも故郷を救ったパターンを正史として、1本分のストーリーを作ればよかったのではないだろうか?
また、本作のメインキャラクターであるサフィも『ライフ イズ ストレンジ』でプレイヤーに強烈な印象を与えたクロエに比べると、パンチが足りないキャラクターであったのは否めない。
学長である母からの重圧に耐えながら、詩人を目指す皮肉屋な女学生という"リアリティ"に関しては申し分ないのだが、中盤以降は物語が目指すドラマチックな展開に振り回されてしまっただけのキャラクターに見えてしまった。キャラクター配置が『ライフ イズ ストレンジ』と似通っているからこそ、単純な比較ができてしまうのも褒めづらいポイントではないかと思っている。
もうひとつ厳しい点をあげると、早ければ12時間ほどで終わるゲームプレイでありながら(プレイステーション5版は)フルプライスでの販売であることだ。これは流石に高すぎる。
ただ、ストーリーを始めとしていくつも気になる点はあるものの、美術や音楽の美しさ、個性的ながらリアリティを持ったキャラクターたちなど、見るべき点はたくさんある作品である。よければチェックしてみてほしい。