長所
- 個性豊かなキャラクターを仲間にする楽しさ
- 自分の手で本拠街(アジト)を発展させるワクワク感
- 3D背景とピクセルアートを活かした美しいグラフィック
- 諸国連合VS帝国の構図で描かれる熱いストーリー
短所
- 仲間にするために相当な手間がかかるキャラクターがいる
- ワールドマップやダンジョンで発生する通常戦闘の敵が強め
RPGをプレイする際、みなさんは何にいちばんワクワクするだろうか。レベルアップ? 宝箱発見? 強敵とのバトル? その答えはきっと十人十色に違いない。だが、どうしても忘れてはいけない要素がある。それは、いっしょに冒険し戦う仲間が増えたときの喜びだ。
505 Gamesより発売された『百英雄伝』はそのタイトル名のとおり、100人以上のキャラクターを対象に仲間集めの楽しさを"これでもか"といわんばかりに体験させてくれるRPGである。多くの仲間を集めるRPGといえば、コナミの『幻想水滸伝』シリーズを連想する人も少なくないだろう。
それもそのはず、『百英雄伝』にはかつて『幻想水滸伝』シリーズの制作を手がけた複数名のクリエイターが参加しており、作中には『幻想水滸伝』シリーズファンなら思わずニヤリとしてしまう要素が無数に散りばめられているのだ。
そんな『百英雄伝』の発売のきっかけは、2020年7月28日に開始されたキックスターター(クラウドファンディング)までさかのぼる。当初、開発資金の目標としては50万ドルが設定されていたのだが、なんと開始から約2時間でこれを達成。その後もバッカー(支援者)からの支援は続き、終了期限となる約1ヵ月後の8月30日までに、出資額は約450万ドル(当時のレートで約4億8000万円)を超えた。
『幻想水滸伝』シリーズの魂を受け継いだ本作に対する世間の期待値が、いかに高かったかが分かる。もちろん、筆者も最初のトレーラーを観た瞬間から『百英雄伝』の発売を待ちきれなかったユーザーのひとりである。そんな本作の魅力を、いくつかの切り口でレビューしていきたい。
開発スタッフの深い愛情が込められた、ひとりひとりのキャラクター
『百英雄伝』の魅力を語るにあたり、やはり100人を超えるキャラクターを仲間にできる点は外せない。これはRPGにおけるキャラクターの育成を好む人はもちろん、自分の趣向に合ったキャラクターをとことん推して楽しみたいという、いわゆる"キャラゲー"が好きな人にも本作を強くおすすめできるポイントだ。
メインストーリーの流れで自然と仲間になるキャラクターもいるが、大半は街やダンジョンなどで能動的に話しかけたりイベントをこなして仲間を集める必要がある。仲間にできるキャラクターはゲームの進行状況によって増えていくため、「どこかに新しい仲間はいねがー!?」と、血眼になってあちこちを行ったり来たりすることになる。
この過程が地味ながらもワクワクでき、本当に楽しい。サブイベントやクエストなどの寄り道的な要素を拾いながら、じっくり遊びたい人は本作を存分に楽しめるはずだ。
なかには戦闘には参加せず、本拠街(主人公たちのアジト)でお店や施設の運営などを専門とするキャラクター(仲間)もいる。そのため全員を冒険に連れては行けない(筆者も戦闘に入れられない"推し"が複数いて本当に悔しい思いをした)のだが、仲間になる際のイベントでは全員がフルボイスでしゃべるという豪華仕様。また、ゲーム内のある施設では全キャラクターの立ち絵を見ながら人物背景を細かく読むことができ、それだけでも十分に楽しめる。
とくに筆者が感服したのは、メインストーリーを含むイベント時のセリフだ。ごくふつうに考えれば、"イベントの流れで必ずパーティに入っているメンバーだけ"がしゃべればよいだろう。というのも、これだけ多くのキャラクターが存在するゲームで、イベント時のセリフが何パターンも用意されているとは思わないからである。
しかし、『百英雄伝』は違った。基本的には短いセリフだが、パーティにいることが不確定なキャラクターであっても、イベント時にボイス付きでそのシーンに適したセリフをしゃべるのだ(誰がしゃべるはランダムっぽい)。もしかすると、そのイベント発生時点で仲間にできるキャラクター全員のボイスが用意されているかもしれない。なんにせよ、『百英雄伝』のキャラクターひとりひとりに開発者の深い愛情が込められていることは確かだ。
躍動感満点! 目を奪われるバトルシーン
RPGの醍醐味とも言えるバトルは、比較的シンプルな作りとなっている。パーティは6人、仲間の行動をコマンド方式でひとりずつ選択してターンを開始すると、敵味方が順番に行動する。
戦闘時に覚えておきたい要素は属性の相性による有利不利くらいで、ほかに複雑なルールなどはないので(ただしボス戦にはギミックがある場合も)、ゲームに慣れていない人でも安心して遊べる。また、ターンの開始時に"おまかせ"ボタンを押すと、あらかじめ設定しておいた作戦(行動パターン)に応じて自動的に戦ってくれるのでとても便利。これらの仕様も、『幻想水滸伝』シリーズから忠実に継承されたものだ。
特筆すべきは、キャラクターの躍動感。『百英雄伝』のキャラクターはすべてがドット絵で描かれているのだが、これが本当によく動く。驚くほどヌルヌル動く。『幻想水滸伝』、『幻想水滸伝II』のファンなら、間違いなくすぐに虜になると断言できるレベルだ。
ドット絵で描かれたキャラクターたちが3D&ピクセルアートで描かれた背景に違和感なくマッチしており、ダイナミックなカメラワークで迫力のあるバトルシーンが演出されている。また、パーティは前衛が3名、後衛が3名と分かれており、とくに後衛のメンバーは戦闘時に岩や段差の上などに立っていることが多い(場所によっては前衛も変わった場所に立つ)。この独特なスタイリッシュな演出も、バトルを盛り上げてくれる一因と言えるだろう。
スタイリッシュなバトルシーンといえば、やはり『幻想水滸伝』シリーズでおなじみの"一騎打ち"も挙げられる。その名のとおり敵味方それぞれのキャラクターが1対1で対決するイベント的な戦闘である。「え? 『幻想水滸伝』シリーズの一騎打ちってそんなにスタイリッシュだったっけ?」と思ったそこのアナタ、ちょっと待ってほしい。『百英雄伝』の一騎打ちは、本当にスゴいんだから! キャラクターが所狭しと動き回り、武器のぶつかり合う甲高い金属音は鳴るわ、火花は散るわ、魔法はぶっ放すわ……と、この説明だけでも大きな進化を遂げているとお分かりいただけるはずだ(『幻想水滸伝』シリーズにはなかったアクションが大幅に増えている)。
ちなみに、メインストーリーで最初に行う一騎打ちではキャラクターのセリフや音楽なども含めて「それは反則だろ!!(泣)」と感動してしまうような演出があり、筆者はそこで一気に本作の虜になってしまった。まとめると、「『百英雄伝』のバトルはカッコいい」ということだ(語彙力消滅)。
"自分でデカくする楽しさ"を味わえる本拠街
『幻想水滸伝』シリーズでは主人公たちが行動拠点として活用する本拠地の存在が通例となっているが、『百英雄伝』にもそれと同じく"本拠街"が登場する。最初に訪れたときは棄てられた廃墟のような場所なのだが、仲間・資金・資材などを集めることで施設を拡充し、より巨大で美しい街へと姿を変えていくことができる。
どの施設から大きくしていくかはプレイヤーに委ねられており、プレイスタイルに合わせて選べる点がグッド。筆者がよくプレイしていた『幻想水滸伝』、『幻想水滸伝II』では仲間が増えると自動的に拠点が拡大していったので、"自分で(拠点を)デカくする楽しさ"を味わえたことは画期的だった。最終的にはかなり立派な見た目になり、喜びもひとしおである。
本拠街の拡大に必要な資材はダンジョンで拾ったり、仲間を自動で素材収集に出向かせる"ギルド派遣"などで集める。ゲーム終盤は後者でまかなうことが多かったが、筆者はゲーム序盤から終盤まで前者の行動を面倒だと思ったことはなかった。なぜなら、一度訪れたダンジョンでも仲間になるキャラクターが見つかることがあるからだ。
豊富な仲間キャラクターの存在が、ともすれば面倒にもなりかねない探索に対する"ごほうび"にもなっている点は、『百英雄伝』ならではの長所ではなかろうか。
仲間とバトルで気になった点
仲間とバトルについては長所も多い反面、短所に感じた点がふたつある。
ひとつ目は、仲間にするための条件がさすがに大変だと思うキャラクターが何人かいたことだ。「100人以上いれば、なかには条件が難しいキャラクターもいる」というのは理解できる。しかし、筆者が言っているキャラクターの場合は「これは必要か?」と感じるような、あまり楽しいとは言えない作業的な行為を繰り返さなければならず、結果的にそれに長い時間がかかってしまったのである。
とはいえ、「全員を仲間にしてクリアしたい!」という気持ちが非常に強かったため折れずに取り組んだ結果、その努力が実る展開を迎えられたので、最終的には「頑張ってよかった!」とは思えた。
ふたつ目は、ワールドマップやダンジョンなどの通常バトルで遭遇する、いわゆるザコ敵が強い点だ。具体的には攻撃力が高く、HPや防御力が低いキャラクターはつねに戦闘不能のリスクと隣合わせ、そうでないキャラクターでもほぼ毎戦闘ごとに回復が必要だった。本作は仕様上、魔法による回復が貴重であるため、カバンのなかは回復アイテムでパンパンに。
おかげで、カバンの容量を広げられる段階まではアイテム管理に手間がかかるという副次的なデメリットもあった。通常バトルは頻度が高いぶんプレイヤーにストレスを与える要因になりやすいし、好きでパーティに加えたキャラクターがまともに戦えないと辛いので、もし次回作が出るのであれば改善に期待したい。とりあえず今後プレイするみなさんは、とくに序盤は回復アイテムを大量に用意することをオススメしたい。
「待って良かった」と思える名作
2020年に公開された初トレーラーを観てから約4年。待ちに待った『百英雄伝』は、『幻想水滸伝』シリーズが大好きな筆者の期待を裏切らない作品だった。また「本作の開発陣は自分たちが生み出したキャラクターや世界観などに、とても深い愛情をもっているのだな」と感じた。それほどまでに、ひとつひとつの要素の作り込みが丁寧なのだ。
1周のプレイだけでは"すべての仲間をバトルに参加させるのが難しい"というのは、あまりにも贅沢な悩みである。実際、すべてのキャラクターを仲間にした筆者も、1周目は自分の本当に好きなキャラクター6名だけに絞ってクリアまで突っ走ってしまった(後悔はしていない)。ただ、どのキャラクターも本当に個性的で魅力があるので、時間が許せば周回プレイでもっと、他の仲間のセリフや仕草を見たいと思う。
「RPGが好きなんだけど、なんか面白いゲームない?」と言われたら、筆者はオススメする作品の1本に『百英雄伝』を加えたい。『幻想水滸伝』シリーズのファンはもちろん、そうでない人にとっても遊びやすく、長く遊べる作品として推せる名作だと思うからだ。『幻想水滸伝』シリーズのファンで、万がいちまだチェックしていないのなら、せめて公式サイトくらいは見て!! 後生だからッ!!
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