長所
- 爽快感と緊張感が同居するバトル
- 学園生活の日常と"影時間"の非日常で描かれる特別な青春
- 抜群にオシャレかつ機能性も備えたUI
- 気分を盛り上げるBGM
- 思い出補正に負けないリメイクとしての完成度
短所
- バトルシステムはRPG慣れしていない人にはやや難しい(難易度設定を変更すれば問題なし)
- コミュなどのイベントを1周でコンプリートするのが難しい
- 『ペルソナ3 ポータブル』にあった女性主人公の要素は未収録
1日と1日のあいだに存在する空白の"影時間"。一般人には知覚すらできないその時間のなかで、心の力"ペルソナ"を駆使して怪物たちと戦い、影時間の謎に迫る少年少女たちの姿を描いたジュブナイルRPG『ペルソナ3』(2006年発売/アトラス)。
同作は、ダークなイメージの強かった『ペルソナ』シリーズのなかでポップかつクールなデザインを打ち出し、システム面も一新したことでシリーズにとっての大きなターニングポイントとなった作品でもある。
発売された当時、筆者は主人公と同じ高校2年生。もともとジュブナイル作品が好きだったこともあり、学園生活と影時間との2軸で描かれる特別な青春の物語は、印象的なバトルシステムとともに強く心に焼き付いた。
そして2024年2月2日、約18年の時を経て『ペルソナ3』を現行ハード向けにリメイクした『ペルソナ3 リロード』(以下、『P3R』)が発売を迎えた。結論から言えば、本作は当時『ペルソナ3』を遊んだユーザーから見ても非常に満足度の高いリメイク作品に仕上がっている。
オリジナル版が持っていた魅力のコアを改変することなく、その魅力をより味わいやすくブラッシュアップし、システム的にも物語的にもゲームを盛り上げる追加要素を引っ提げて帰ってきたジュブナイルは、「リメイクとはかくあるべし」と言いたくなる完成度を誇る。今回はその魅力をバトルシステムと、"コミュ"で描かれる物語性の2点に絞ってレビューしたい。
なお、本稿の執筆に前後して後日談を描くDLC『エピソードアイギス』が配信されたが、今回のレビューでは『ペルソナ3 リロード』本編の内容のみを扱っている。そこについては予めご了承いただきたい。
戦況が一瞬でひっくり返る"プレスターンバトル"と、その弱点を補う新要素"テウルギア"
『P3R』のバトルは敵と味方とが順番に行動していくターン制で進行し、プレイヤーは味方の攻撃やスキルなどのコマンドを選択しながら戦いを進めていく。基本的にはいわゆるターン制のコマンドバトルだが、本作のバトルに爽快感と緊張感をもたらすのが"プレスターンバトル"のシステムだ(余談だが、プレスターンバトルが初めて登場したのは2003年発売の『真・女神転生III-NOCTURNE』)。
これは、相手の弱点を突く、物理攻撃でクリティカルを出す、などして敵をダウンさせると"1MORE"が発生し、同じキャラがもう一度行動できるようになるというもの。活用すれば敵にターンを与えずに瞬殺することもできる便利な要素だが、このルールは敵にも適用される。
敵の全体攻撃でクリティカルが発生し、再びの全体攻撃でパーティーが壊滅状態に……といった事故が起きることもあり、一般的なRPGに比べると相手に行動させるリスクは大きい。一方的に敵を倒せる快感と逆に突き崩される恐怖、ザコ戦であってもそんな二面性を持つのが本作のバトルだ。
弱点を突くことでダメージが増加する作品は多いが、それが行動回数の増加にもつながる本作では、敵味方ともに弱点を把握することがより一層重要だ。また、弱点を突くにはスキルを多用しSPを消耗することになるため、残りSPの管理や回復アイテムの確保も攻略のポイントとなる。
ターン制コマンドバトルという慣れ親しんだシステムにメリハリを与え、1回1回のバトルにおける爽快感と緊張感だけでなく、ダンジョン攻略中のリソース管理ともつながるこのプレスターンバトル。個人的にはターン制コマンドバトルにおけるひとつの正解ではないかと言いたくなるシステムだ。
本システムはオリジナル版から実装されていたが、ボス戦では敵が弱点を持たないことも多く、そういった戦闘では一般的なターン制コマンドバトルに近い展開になることも多かった。リメイクにあたってその部分を補強しているのが、"テウルギア"の存在だ。
こちらは戦闘中に溜まるゲージが最大になると使える必殺技のようなもので、キャラクターごとの強力なスキルを発動できる。ゲージは各種行動で増加するほか、回復スキルを多く覚えるキャラは味方を回復した際にゲージが大きく伸びるなど、キャラごとに特定の行動を取ることで大量増加が狙える。
長期戦になりやすいボス戦ではテウルギアがバトル的にも演出的にもアクセントとなっており、ゲージを意識した立ち回りをすることで、オリジナル版と比べてもメリハリのある戦いが楽しめる。テウルギアのゲージはバトルをまたいで維持されるので、ダンジョン攻略中もゲージが溜まったら即使うか、それとも強敵用に温存するか、といった新たな戦略性が生まれているのもポイントだ。
バトルに関連する部分で逆にオリジナル版からカットされているのは、ダンジョン攻略中のステータスに影響を与える"体調"の要素。オリジナル版では体調を加味してパーティー編成などを考える必要があったが、今作では自由な攻略が可能だ。
遊びやすくなりつつも油断ができない緊張感は変わらず、よりスムーズにバトルの面白さを味わえるようになっている。
ゲーム的なメリット以上に「やりきってよかった」と思わせてくれるコミュ要素
授業やテスト(試験)をこなしながら学生としての日常を送りつつも、人知れず存在する影時間のなかで戦いに挑む少年少女たち。同級生や先輩、後輩たちと協力し合い、ときにはぶつかり合いながら謎に立ち向かうメインストーリーもさることながら、本作の物語をより印象的にしてくれるのが"コミュ"の存在だ。
コミュとはコミュニティのことであり、ざっくりと言えば主人公が学友たちや街の人々と結ぶ絆のこと。日常生活のなかで人々に出会い、交流していくことで各キャラクターに応じたコミュが解放され、関係性を深めることでコミュのランクが上昇していく。
コミュのランクを上げると、ペルソナを合体させた際に経験値ボーナスが得られるといったゲーム的なメリットがあるのはもちろんだが、コミュの魅力はそこで描かれる各キャラクターの物語にある。
コミュで描かれる物語の多くは影時間と直接関係せず、それぞれが日常のなかで直面している問題や悩みにどう向き合っていくか、その葛藤や決断が主題となる。出会ったタイミングでは主人公に対して当たりが強いキャラもいるため、誤解を恐れずに言えば「このキャラクターを好きになれるかな……?」と思ってしまうこともあるだろう。
しかし、コミュを進めていくとそれぞれが抱える事情やそのキャラクターを取り巻く環境が見えてくるようになり、自然と相手への理解も深まっていく。ゲーム的なメリットのためにコミュのランクを上げていたら、いつの間にか物語の続きが気になってそのキャラクターのもとに足を運んでいた、ということも珍しくはない。
メインストーリーでも仲間同士が強く衝突することはあるが、コミュはコミュで解決が難しい問題に傷つき悩む姿が描かれているため、なかなかヘヴィな内容になっていることもある。だからこそ先を知りたくなり、救いのある展開になってほしい、と感情移入ができるのだ。
オリジナル版では、パーティーメンバーとなる男性キャラクターのコミュは存在していなかったが、『P3R』では男性陣+αとの交流を描く"リンクエピソード"が追加されている。コミュとは少し異なるが、オリジナル版では描かれなかったエピソードが楽しめるとともに、ゲーム攻略に役立つメリットも用意されているという点は共通している。
リンクエピソード以外にも仲間の深掘り&戦力強化につながるイベントが加わっており、オリジナル版を遊び尽くした人でも見知った仲間の新たな一面に触れることができるのはうれしいところだろう。
コミュやリンクエピソードでは個々人の成長が描かれ、最後まで進めるとそれぞれの問題はひとつの解決を迎え、心地よい読後感が得られる。さらに、そこからもうひと押しの感動を与えてくれるのがエピローグにおける会話だ。
イベントを最後まで進めたコミュやリンクエピソードのキャラクターはラスボス戦後のエピローグにも登場し、明るい未来を感じさせるような、その後の姿を見ることもできる。いずれもイベントを進めきったプレイヤーへのご褒美と言えるような内容になっており、ひとりひとりに話しかけるたびに、ボスの撃破とはまた違った、じんわりとした達成感がこみ上げてくる。
個人的には、オリジナル版を遊んだ当時は恋人関係になれるキャラクターたちが印象に残っていたが、今作では大人サイドの話にグッときてしまった。リアルタイムで『ペルソナ3』に触れた人は、そのあたりの感覚が当時とどう変わったか、あるいは変わらないのか、といった部分も楽しめるだろう。
短所(かもしれないポイント)を(敢えて)挙げるなら
自分個人の感想として言わせてもらうなら、『P3R』という作品は理想的なリメイクであり、オリジナル版を知らない人にもオススメしたいRPGだ。が、公平性を期す意味でもここで敢えて短所になるかもしれないポイントを挙げておこう。
まずひとつは、バトルの難度。プレイスタイルにもよるが、RPGに慣れている人でもそれなりのスリルを味わえる本作のバトルは、逆に言えばRPGを遊び慣れていない人がビジュアルや物語に惹かれてプレイした際には苦戦を強いられる可能性が高い。が、ここに関しては難易度設定で適切なものを選べば問題ない。
本作では5種類の難易度が用意されており、もっとも簡単に遊べるPEACEFULの設定にすれば、全滅しても無制限で復活できる。最高難度のLUNATICを選ぶと難易度の変更はできなくなってしまうが、ほかの難易度は基本的に好きなタイミングで自由に変更できるので、ゲームが難しいと感じたら素直に難易度を下げるのがオススメだ。
もう一点は、コミュやリンクエピソードを1周のプレイでコンプリートするのが難しいこと。オリジナル版に比べて自由行動ができる時間は増えたものの、今作で追加されたイベントもあるため、全イベントを最後まで進めるとなるとスケジュール管理がけっこう重要になってくる。
攻略サイトなどを見ながらプレイすればもちろん1周目でのコンプもサクッとできるが、今日は誰に会おうかと悩むのも本作をプレイするうえで楽しい部分なので、自分の思うままにプレイしてほしいところではある。
周回プレイでは主人公のレベルや装備などを引き継げるので、ゲームの進行は1周目とは比べものにならないほどスムーズになる。最後まで進められなかったコミュは2周目で、というのもアリだ。
また、本作では『ペルソナ3 ポータブル』で登場した女性主人公の要素は収録されていない。諸々の必要な対応を考えると仕方ないと思えるが、自身と同じ性別の主人公で遊びたい女性プレイヤーや、女性主人公でのみ発生したイベントに思い入れがある人にとっては惜しまれる点だろう。
『ペルソナ3 ポータブル』はSteam版を含めたリマスター版が出ているので、(システムまわりは当時のものになってしまうが)女性主人公の物語も現在の環境でプレイすることは可能だ。
『ペルソナ3』を愛した人にも、以降の作品からシリーズに触れた人にも遊んでほしい1本
オリジナルの『ペルソナ3』が持っていた魅力に手を加えすぎることはせず、その魅力をより快適に味わえるようブラッシュアップされた『P3R』。グラフィック表現も現代のものとなり新たなアニメムービーも加わったことで、オリジナル版を遊んだプレイヤーでも新しく楽しめる作品となっている。
『ペルソナ5』などの比較的新しい作品からシリーズを知った人も、現代的なゲームとして蘇った本作で、シリーズのターニングポイントとなった『ペルソナ』がどのようなものだったのかをぜひ体験してほしい。
個々に項目として扱うことはしなかったが、リメイクにあたり全体的にリファインされたBGMも見事のひと言。とくにヘッドホンなどで聞くと低音が心地よく、プレイ中のテンションをさらに押し上げてくれる。音響を選べる環境にある人はぜひいい音で聞きながらプレイしてほしい。
また、記事内に掲載している画像を見ても分かる通り、本作はメニュー画面や各種UIも高い完成度を誇る。見た目が印象的なだけではなく、操作の快適さなどの機能性も完備しているのはさすが『ペルソナ』シリーズ、さすがアトラス、となるポイントだ。
自分にとって初めての『ペルソナ』シリーズだったことや、当時主人公たちと同じ年齢でプレイできたこともあり、シリーズのなかでもとくに思い入れのある『ペルソナ3』。オリジナルを好きすぎるとリメイク作品に厳しい目を向けてしまうこともあるが、『P3R』はその期待や思い出補正をしっかりと越え、新たな記憶を刻んでくれた1本だ。
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