



長所
- デッキビルド×建設の独創性
- 恐怖の館をテーマにした世界観
- ハマると楽しいビルドの自由度
- 遊びやすく配慮されたカードテキスト
短所
- リトライ性がやや低い
- 遊び尽くすとビルドの幅が狭い
- アップデート前提での発売
『Deck of Haunts』は恐怖の館に入ってくる人間たちを撃退して、館の核となる"心臓"を守るのが目的のローグライクゲーム。Mantis Gamesが開発し、DANGEN Entertainmentより2025年5月7日に発売された。
最初は複雑に見えて何をしているのかわかりにくいゲームではあるのだが、ルールは意外とシンプルでどのように戦術を練ればいいのかを考えやすく、すぐに理解できるようになる。また、ステータスなどのUI表示も直感的かつ視認性が良く作られているので、見た目以上に遊びやすいタイトルになっている。
『Deck of Haunts』とはどのようなルールのゲームなのか?


まずは本作の基本ルールを解説する。プレイヤーは30日間生き残るために、館に侵入する人間たちを排除しつつ、"館の心臓"を守るのが目的だ。1日ごとに昼と夜の時間があり、昼は館を拡張する建設パート、夜は人間たちを倒すバトルパートとなっている。
館の拡張には"エキス"と呼ばれるポイントを消費する。プレイヤーは一定のルールに従いながら、自由に部屋を建設して館を広げていくことができる。建設コストは、館の最深部にある"心臓"からの距離によって変化し、心臓から離れた場所に部屋を作るほど、必要なエキスが増加する仕組みになっている。つまり、心臓から遠い部屋ほど人間たちがたどり着きにくくなり、防御を強化できる仕組みだ。
エキスを手に入れる方法は、基本的には夜の時間に人間たちを倒すしかない。人間たちは基本玄関から入ってきて、毎ターンつぎの部屋に移動し、心臓のある部屋を目指したり、はたまた別の部屋へとランダムに移動していく。そのあいだにカードを駆使して、心臓部に到達するまえに人間を倒していくのがバトルの基本となっている。
人間がひとり心臓に到達するたびに、プレイヤーのHPが減っていく。初期値は8HPなので、例外を除けば8人が心臓部に到達した時点で、ゲームオーバーとなる。HPは特定のタイミングでエキスを払うと回復が可能なので、そこまで難度はシビアではない印象だ。ただ、心臓自体を攻撃してくる人間などもいるため、一筋縄ではいかないことも。基本的には、人間の進行をどう阻むのか、といったプレイが攻略のカギになっている。



ユニークなのが、人間たちは"ダメージ"(体力)と"消耗"(正気度)といった、ふたつのHPを持っていること。物理的なダメージ与えて体力をゼロにすると死亡、精神的ダメージで正気度をゼロにすると発狂となり、ゲーム的にはいずれも人間を倒したことになる。
ただし、倒したあと、人間の扱いが異なるのがポイント。殺害した遺体をほかの人間が発見すると、パニックを起こして館から逃げ出すように出口に向かって進み始める。館から脱出されてしまうと、より強い人間(たとえば、警察官など特別な能力を持つ者たち)を呼び出して、再度来訪してくる。
発狂させて倒した場合、その人間はまだ生きているので、ほかの人間に発見されても問題なし。だが、部屋のなかで動かない状態になるので、一部カードの効果で存在が邪魔になってしまったり、またはほかの人間が回復能力で正気に戻してしまう、といったデメリットもある。
この"殺害"するのか、"発狂"させるのか、といった駆け引きが本作のおもしろいところだ。攻撃は、毎ターンデッキからカードを数枚引き、コストを払って手札のカードを使用して実行する。体力へのダメージを与えるのか、それとも正気度を消耗させるのか……カードによって効果は異なるが、基本はどちらを攻めるのかがポイントになっている。この駆け引きが、本作ならではのカードバトルシステムだ。




攻撃系以外にも、カードをドローするなどのサポートカードや、部屋に1ターン人間を閉じ込めるといった、本作ならではの効果を持つカードも多く存在する。毎回異なるシチュエーションに合わせて、どのようなデッキを構築しながら人間を倒すのかを悩みながらプレイするのが魅力のひとつだ。
そして、プレイヤーは、ゲーム内の1日(建設→バトル)が終了するたびに、数枚提示されるカードのなかから、新規カードか、もしくは建築カード(部屋のパーツ)をひとつ入手できる。カードを入手すればデッキに組み込まれ、より戦略の幅が広がっていく。
建築カードを手に入れた場合は、館に設置することでその効果を発揮できる。たとえば、部屋に入った人間に体力ダメージを与えるトラップのような部屋や、部屋にカードを隠しておいてあとで使えるようにするものなど、効果の種類もさまざまである。
このようにデッキ&部屋を拡張しながら、人間たちを倒し、30日間生き残る。これが本作の基本ルールになっている。
なお、ホラーテイストの強い世界観ではあるが、ホラーゲームとは異なり、怖がらせることには重きを置いていないと感じた。血液や人間の死など、少しダークな部分はあるが、基本的にはカジュアルなゴシックホラー作品となっているので、怖いものが苦手な人もご安心を。
デッキ構築型ローグライクらしい高い戦略性


デッキ構築型ローグライクゲームは数多くリリースされており、各タイトルがそれぞれ独自の特色を打ち出している。『Deck of Haunts』も例外ではなく、ランダムに提示されるカードから選択を重ねて独自のデッキを作り上げていく過程がじつにおもしろい。
とくに前述のとおり、体力と正気度のどちらを攻めるかが盤面で重要な選択となる。人間の体力は正気度よりも低いことが多く、発狂させるよりも殺害のほうが簡単に見える。しかし、体力ダメージは他のカード効果で強化しづらく、カード同士を組み合わせた連携(いわゆるコンボ)も狙いにくいというデメリットもある。
一方、正気度はカード同士のコンボでダメージを増やしやすく、結果的に体力よりも正気度を削るほうが有利な場合が多い。どちらの戦術を選ぶかは悩ましいポイントである。
とはいえ、殺害を選ぶメリットがある場面も存在する。たとえば、心臓部の直前の部屋まで多数の人間が侵入し、心臓のHPが危険な状況にある場合、人間をひとりでも殺害すれば、残りの人間たちはパニックに陥って館から逃走を始める。このように遺体を利用することで、心臓のHPを守ることができるわけだ。
まさに、本作のバトルは独創的でありながらも、しっかりと恐怖の館を演出しており、ゲームシステムと世界観がうまく結びついていると感じた。敵の種類もそれなりに存在し、人間ごとに"1部屋ではなく、2部屋進める"、"同じ部屋の人間を回復する"など、さまざまな特殊能力を持っている。



また、わかりやすくも厄介なのが、役職を持った人間たちだ。"警察"は、ロックされた扉を破壊して進んでくるうえ、体力&正気度ともに高い。"神父"は、ほかの人間が同じ部屋にいると、ダメージが絶対に入らない能力を持っているので、単独状態にする必要がある。
この"単独状態"をはじめとする人間たちの状態管理が本作の重要な要素であり、ゲームのおもしろさを高めているポイントだ。カードの効果も、部屋全体に影響を与えるもの、特定の人間を指定できるもの、単独状態の人間にしか使えないものなど、発動条件が細かく設定されている。
なお、発狂した人間は"倒した"扱いになるものの、生きている人間の数としてカウントされるため、通常の人間と発狂した人間がいる部屋は、"単独状態ではない"という判定になる。これは、よくできているルールだなと感じた。


そしてもうひとつ重要となるのが、館のカスタマイズである。部屋は、基本的に1マス単位で配置可能だ。部屋には、3種類の基本部屋(客間・キッチン・リビング)が存在する。同じ種類の部屋をつなげると、大きな部屋を形成できる。部屋の種類を別のものにして設置すれば、扉を隔てて区切られる。
扉は、人間たちが1ターンごとに開けながら、さまざまな部屋を移動して心臓部を目指す。つまり扉が多ければ多いほど、人間たちの進行は遅くなるわけだ。となれば細かく部屋を分けて、とにかく扉を増やせばいいと思うかもしれないが、部屋に効果を付与する建築カードを利用するには、大きな部屋を作る必要がある。
建築カードは、基本的に2×2マス部屋などの指定があるので、部屋の形に合わせないと配置できない。また、一部の特別な建築カードは、基本部屋を設置せずに、そのままの形で配置する必要がある。
さらに、人間の中には玄関からではなく、途中の部屋の窓から侵入してくる者も存在する。単純に玄関と心臓部を遠ざけておけば安心、というわけではない。配置によっては、人間がいきなり心臓部の直前の部屋から現れることもあるのだ。部屋の構造については慣れるまで難しいかもしれないが、基本はシンプルなので、遊んでいくうちに心臓部への道をどうややこしくすればいいのか、自然に掴んでいけるはずだ。
また、人間たちがどの部屋に進むかには多少の法則はあるものの、基本的にはランダムで行動する。そのため、部屋を多く作っておくだけでも、人間たちが迷路に迷い込んだように館のなかを動き回ることがある。このランダム性が本作のおもしろさのひとつであり、最短ルートで心臓部を目指す者もいるため、予測できない緊張感ある展開が生まれやすい点も魅力だ。



特定の日数に到達すると、さまざまな報酬を選択する場面が訪れる。この選択も悩ましい要素のひとつだ。特定の日にはカードをアップグレードするか、体力か正気度への攻撃カード、もしくは心臓HPを1払ってレアカードを手に入れることができる。
とくにアツいのが、やはり心臓HPを削っての、レアカード狙い。レアカードはだいたいクセの強い性能ながらに、使いこなすと強力なものが多い。そこから戦略を考えたりするのも、遊んでいて楽しかった部分だった。
さらに、"警察"などの役職持ちは、初登場時にボスとして現れる。その日を乗り越えたときには、カードをアップグレードするかエキスを手に入れるか、いずれかの報酬を選択できる。また、同時に心臓HPの回復と、デッキからのカード削除も可能だ(エキスを払えば同時に選択可能)。
なお本作でとくに素晴らしいと思ったのが、カードのやり取りが、とても遊びやすいこと。たとえば、特定条件でカードのダメージ数値に倍数が掛かるカードがあるのだが、使おうとするとそれぞれ倍数が掛かったダメージ数値を予測表示してくれる。
また、特定条件を満たすと効果が発揮されるカードは、条件を満たしていない場合、その効果テキストが黒く表示され、効果を発揮できないことを教えてくれる。こういったカードのやり取りでややこしい、わかりにくい部分がしっかり可視化されているので、細かな計算などを省略して遊べるのは、とてもうれしい配慮だった。
なお、1度ゲームをクリアーすると、目標である30日間を超えて何日間でも限界に挑戦できる、エンドレスモードが解禁される。
ビルド構築の幅の狭さがネックか?


本作でもっとも楽しいのは、ゲームへの理解度が深まっていく過程、つまりプレイを始めてからクリアまでの道のりだ。どのゲームにも言えることだが、デッキ構築型ローグライクはとくにそこが楽しく、かつクリアーしても、何度も何度も挑戦したくなる魅力を持っているものだ。
本作も生存した日数ごとにプレイヤー経験値が溜まり、レベルが上がるたびに新カードが解放されるアンロック要素がある。クリアーしても新しく解放したカードを使って、さらに個性的なビルドを構築できる。

初期デッキ機能は、発売後に追加された要素。だが、ゲーム性が大きくかわるほどのものではない。
ただし、本作には他のタイトルで見られるような、クラスの選択やヒーローの変更など、デッキの主軸となるギミックやパーツを変更する要素が存在しない。発売後のアップデートにて初期デッキを変更できる新要素が追加されたのだが、数枚の初期カードが異なるだけで、その後、選択していくカードはすべて同じである。
カードの種類自体もそこまで多くないため、何度も遊んでいるうちにビルドの幅が少し狭いことに気づき始めるだろう。ギミックや戦略性はおもしろいのだが、慣れていくたびに、本作は底がそこまで深くないのだな、と個人的には感じていた。
よりカードギミックが大胆に異なるような、ビルドの多様性がたくさん存在したら、何度もクリアーを目指したくなったと思うのだが……。この手のゲームでは珍しく、本作は1周達成まで2~3時間掛かることもあり、1度クリアーしたら満足してしまったような気がする。
もちろんいろいろなデッキは構築できるが、結局ところダメージ重視の体力狙い型か、カードコンボを駆使した正気度狙い型、そのふたつを掛け合わせた複合型(体力、正気度両方にダメージが入るカードも存在)と、ビルドの幅自体が狭いのだ。
良くも悪くも、ビルドが完成してしまうと、1ターンですべての人間を処理できてしまうようなコンボも少なからずある。これはカードがランダムで手に入るローグライクだからこそ、揃ったときのご褒美の側面もあるので、いわゆる"無限ループコンボ"が悪いとは思っていない。ただ、必要なコンボパーツは、数枚のカードさえ揃えばいいので、達成しやすい。そこは、人によっては不満点になるかもしれない(もちろんコンボを思いつく必要もあります)。
強力なコンボが作りやすいので、建築パート自体も慣れていくとすることがなくなっていく。1ターンにすべての敵をカードだけで倒せるようになれば、部屋の数も増やさなくていいし、部屋の効果も利用する必要がないからだ。となれば、ビルドが完成したとたん触らないシステムになってしまい、本作の特徴が消えてしまったなと感じていた。
なお、本作は人間を倒した際にエキスが手に入るが、発狂させた人間を殺害した場合、発狂させたとき、殺害したときで、2回エキスが貰えてとてもお得だ。ゲームを有利に進めるために突き詰めていくと、エキスを稼ぐためにカードを駆使してひとりの人間から、2度エキスを吸うことに時間を費やすことになる。ただでさえ長い1周のプレイが、よりものすごく長くなるので、いっそのこと片方しか選択できないシステムにしてほしかった。
アップデートでどう転ぶか?
……と、気になるところはちょくちょくあるのだが、基本的にはデッキ構築型ローグライクらしいゲーム性と、本作ならではの恐怖の館を作り出すシステムは、世界観とマッチしていて、とても楽しめた。
なお、カードゲームはカードテキストが重要なので、翻訳によっては実際の効果と違うテキストになってしまう場合も少なからずある。だが、本作のテキストはしっかりと翻訳されており、フレーバーテキストのホラー的なジョークさえも、日本語としてしっかり読めるようになっていたのが好印象だ。
本作の発売時はエンドレスモードや、初期デッキの選択すらなかったのだが、発売後のアップデートでいろいろと追加された。リリース後の公式パッチノートに、「我々はまだ本作が完成したと思っていません」と書いてあるように、アップデートで新機能を続々と追加する予定があるタイトルのようだ。
もちろんプレイヤーとしてはうれしいのだが、アップデート前提で正式リリースするのではなく、早期アクセスゲームとして販売すればまた印象も違ったのでは? と思う。