アートを通じて文化・社会貢献を行う"ポケモン"が目指すもの

ポケモンとアートの関係性とは?

ライター /

重要なポイント

『ポケモン』はゲームだけでなく、さまざまなアート活動を通じて文化・社会貢献にも力を入れている。現代アート作家とのコラボレーションや大学の奨学金制度など、多彩な取り組みでブランド価値を高め、次世代のアーティスト育成にも貢献している。

『ポケットモンスター』(以下、『ポケモン』)といえば、言わずと知れた大ヒットゲーム(シリーズ)である。

1996年に第1作目の『ポケットモンスター 赤・緑』が発売されて以来、これまでの"全『ポケモン』関連ゲーム"の累計出荷本数は4億8000万本以上にものぼる(※2024年3月末現在)。

まさに、タイトルどおりの"モンスター"作品である。

世代すらを超えて世界中で愛され続けている『ポケモン』だが、さまざまなアートを通じて文化貢献や社会貢献活動を行っているのはご存知だろうか?

本記事では、知られざる(?)"ポケモンとアートの関係性"について迫ってみたい。

アートを通じて、ポケモンブランドの価値を高める?

株式会社ポケモンは、"アートを通じてポケモンブランドの価値を高める"さまざまな活動を展開している。

そのひとつに、現代アート作家のダニエル・アーシャム氏とのコラボレーションがある。

これは、「もしも1000年後にポケモンが発掘されたら?」をテーマにコンセプトにしたアート(彫刻作品)プロジェクトだ(本記事のトップ画像もダニエル・アーシャム氏の作品)。

2020年2月にプロジェクトを発表し、これまでに都内をはじめニューヨークなど各所で展覧会を開催している。

また、過去にユニクロのグラフィックTシャツブランド"UT"より、"ダニエル・アーシャム×ポケモン"デザインのTシャツが販売されたのも記憶に新しいところだ。

さらに、2022年には、そのプロジェクト作品をまとめた書籍、『ダニエル・アーシャムのポケモン図鑑』もリリースされている。

ダニエル・アーシャム氏が作ったポケモンのピカチュウ
©Daniel Arsham Courtesy of NANZUKA ©2022 Pokémon. ©1995-2022 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

ダニエル氏が想いを寄せるポケモンたちを題材に制作した彫刻作品シリーズ、「Relics of Kanto Through Time(西暦3020年に発掘したポケットモンスター 赤・緑の世界)」。

また、"ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―"も、"ポケモン×アート"の取り組みの一環だ。

これは、人間国宝から若手まで20名のアーティストによるポケモン作品・約70点が楽しめる展覧会(※2023年に石川県にある国立工芸館にて開催され、その後、各地で巡回展を行っている)。

会場では、多種多様な素材や技法で作られた器・着物・帯留めといった作品が展示され、ポケモンと工芸を掛け合わせることで生まれた"かがく反応"を味わうことができる。

今井完眞氏が制作した工芸品、フシギバナ
© 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

ポケモン×工芸展の出品作。今井完眞「フシギバナ’」2022年・個人蔵。撮影:斎城卓。

さらにもうひとつ、ゲーム中の"カセキから復元されるポケモン(カセキポケモン)"と、現実世界の実際の"化石"を見比べて、古生物学について楽しく学んでもらうというコンセプトの企画展"ポケモン化石博物館"も、『ポケモン』がアートを通じて行っている文化貢献・社会貢献のひとつと言ってもいいだろう(※2021年に北海道の三笠市立博物館にて開催され、その後、各地で巡回展を行っている)。

ポケモン化石博物館の様子。カブト・カブトプスとカブトガニ
© 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

2022年に国立科学博物館で開催されたときの"ポケモン化石博物館"の様子。ポケモンのカブト、カブトプスの骨格想像模型などとともに、現実世界(実物)カブトガニの化石を並べて展示。

他にもまだある"ポケモン×アート"の取り組み

じつはまだ他にも、"ポケモン×アート"の取り組みは多数ある。なかでも、筆者が面白いと思ったのは"ポケモンスカラシップ"である。

"スカラシップ"とは直訳すると"奨学金、または奨学金を受ける資格"のこと。

"ポケモンスカラシップ"は、創造的なアートやデザインの力で、これからの時代を切り拓く学生を支援することを目的として、株式会社ポケモンと、ロンドンの国立美術大学"ロイヤル・カレッジ・オブ・アート"とのあいだで設立した奨学制度である。

2018年に設立され、これまでに(2024年現在)計12名の奨学生を選出している。

支援内容は、奨学金の給付(学費の補助)をはじめ、奨学生たちがポケモンの関連会社を訪問する、およそ1週間ほどの日本旅行(研修)なども含まれているそう。

これまでに奨学生として選出された学生のなかには、その後、アーティストや彫刻家、はたまた研究者やエンジニア、さらにはゲームスタジオのコンセプトデザイナーになった人などさまざま。

キラリと光る才能を持った美術学生を発掘し、(さまざまな支援をして)進化させていく(強くさせていく)、というのはまさにゲームの『ポケモン』らしさも感じられる。

いまはまだ無名であっても、創造の力で新しい領域を切り開いていく可能性を持つ学生たちを支援することで、それが将来的な社会貢献に繋がる、という考えのもと設立されたそうだが、まさにアートの力を借りた素晴らしい取り組みである。

ポケモンスカラシップの公式サイト
©2023 Pokémon. ©1995-2023 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

ポケモンスカラシップの公式サイト。

現実世界を豊かにするポケモン

なお、これらの取り組みは、ビジネス軸が最終目的ではなく、あくまでもアートの力を借りて文化貢献や社会貢献になるような企画を行い、それが結果的にポケモンのブランド力アップや永続化に繋がることを目指しているそうだ。

株式会社ポケモン代表取締役社長である石原恒和氏が、そもそもアートに精通しているということもあり(筑波大学大学院芸術研究科を修了している)、このような"ポケモン×アート"というさまざまな取り組みが行われているのではないだろうか。

これは余談だが、石原氏はこれまでにメディアアーティストの岩井俊雄氏といっしょに、当時としては前衛的な音楽シューティングゲーム『オトッキー』(1987年発売・ファミコンのディスクシステム用ソフト)を開発したり、テレビゲームの歴史をあらゆる角度から記録した書籍『テレビゲーム 電視遊戯大全』(1988年・UPU刊)を手掛けたりなど、アート色が濃いさまざまな活動を行われている。

なお、株式会社ポケモンの社是は「ポケモンという存在を通して、現実世界と仮想世界の両方を豊かにすること」である。今回、紹介したアートという側面だけではなく、他にも現実世界を豊かにするためのさまざまな取り組みを行っているのは、これを読んでいるみなさんのほうが詳しいはず(オフィシャルショップのポケモンセンターの運営や、JR東日本とコラボしたポケモンスタンプラリー、ポケモンがデザインされたマンホールの蓋を設置するポケふたプロジェクトなどなど)。

そんななか、(アートを見るのが好きなこともあり)個人的にはこの"ポケモン×アート"のさらなる展開がとても楽しみなのである。

© 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは 任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
©Daniel Arsham Courtesy of NANZUKA

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