渋谷でまたドラマが動き出す! イシイジロウ氏の実写アドベンチャープロジェクトに期待すること!

『街』と『428』のファンから見た期待値!

ライター /

重要なポイント

『街』や『428』を手掛けたイシイジロウ氏と北島行徳氏が再タッグを組み、渋谷を舞台にした新たな実写アドベンチャーゲーム制作プロジェクトが始動。群像劇や実写表現など、往年の作品の要素を継承しつつ、熱意と覚悟をもって新作に挑む姿勢がファンの期待を集めています。

『街 〜運命の交差点〜 特別篇』(以下、『街』)で監修を、『428 〜封鎖された渋谷で〜』(以下、『428』)で総監督を務めたゲームデザイナーのイシイジロウ氏と、シナリオを手がけた北島行徳氏が再タッグを組み、<渋谷を舞台とした"実写アドベンチャーゲーム"の開発&発売を目指すプロジェクト>がクラウドファンディングで始動しました。

昨今さまざまなアドベンチャーゲームが発売されて人気が高まるなか、いまだに熱烈なファンが多数存在し根強い人気を誇っている、"複数の主人公がシンクロし合う物語"&"群像劇システムを実写で表現"するアドベンチャーゲームは(2008年の『428』の発売から)20年近くが経過したいまでも後続作品は現れませんでした。

そんな"複数の主人公がシンクロし合う物語"&"群像劇システムを実写で表現"するアドベンチャーゲームの先駆者として業界を牽引してきたイシイ氏自らが立ち上げた本プロジェクトについて、『街』と『428』の両作品のファンである筆者がこれまでの作品に触れつつ、本プロジェクトについて期待する点をお伝えします。

イシイジロウ氏が新プロジェクトを始動した経緯とは!?

『428』「渋谷実写アドベンチャープロジェクト」
画像引用/うぶごえ(クラウドファンディング)

本プロジェクトのバナー。写真左は『街』の雨宮桂馬役で知られる、あらい正和氏。写真右は『428』の御法川実役を務めた北上史欧氏。ふたりは本プロジェクトの出演者として名を連ねている。

イシイジロウ氏は、過去に株式会社チュンソフト(現:株式会社スパイク・チュンソフト)に在籍中に『428』や『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』など多くのアドベンチャーゲームに携わり、その後は活動を株式会社レベルファイブに移し『タイムトラベラーズ』を作ったゲームデザイナーです。2014年に独立し、現在は株式会社ストーリーテリングの代表取締役社長を務めています。

アドベンチャーゲームにおいては、これまでシナリオ・監督・プロデュースなど多岐にわたり手掛けており、まさにそのジャンルでの第一人者と言えます。そんなイシイ氏が満を持して発表したのが本プロジェクトです。

なお、本プロジェクトのクラウドファンディングのページには、以下のような説明が記されています。

出演者としては、『街 ~運命の交差点~』の「雨宮桂馬」役で知られるあらい正和氏、『428 ~封鎖された渋谷で~』の「御法川 実」役で知られる北上史欧氏の両名も参加。往年の名キャストたちと共に、かつてない熱量で新たなゲーム制作に挑みます。

クラウドファンディングのページトップを飾る写真(バナー)には、イシイ氏の言葉どおり、過去の作品(『街』および『428』)で、それぞれ主役を演じた俳優・あらい正和氏と北上史欧氏の両名が渋谷のスクランブル交差点を背に堂々と写っています。

まさに新作でもこのふたりがメインを張るような活躍が見れるのではないかという期待が高まる構図です。

また、プロジェクトの特徴については以下の3点が記載されています。

  1.  "群像劇"としてのゲームシステムの継承
  2. シナリオとゲームシステムを最優先する開発姿勢
  3. "利他的"なゲームデザイン

新作(本プロジェクト)においても、"静止画×テキスト"によるクラシカルな演出や、キャラクター視点が切り替わるマルチサイト構造など、過去作(『街』や『428』)で軸となっていた要素はそのままに物語を楽しむことができそうです。そして、あっと驚くようなシナリオやそれに紐づいたキャスティング、またこれまでの作品にはなかった新要素なども期待できるかもしれません。

イシイ氏の作品のいちファンとしては、上記の3要素のどれかひとつでも欠けてしまうともはや別方向のアドベンチャーゲームになってしまうように思えます。そんななか、あくまでも"群像劇アドベンチャーゲーム"として『街』や『428』を超えるような作品に挑戦しようという強い意志が伺い知れます。

イシイ氏が本プロジェクトにかける想いは?

クラウドファンディングのサイトには、以下のように、イシイ氏による"後継者を望む想い"が書かれていました。

自分が『街』からたくさんのものを受け継いで作品を作ったように、きっと誰かが『428』のエッセンスを受け継いで、次の新しい作品を作ってくれるに違いない。

もし『428』を超えるような作品が出るならば、それは僕じゃない誰かがやるべきだと思っていたし、そんな"後継者"がいつか現れるだろうと、本気で信じていました。

実写系のサウンドノベルは決してメジャーなジャンルとは言えません。

シナリオやキャスティングなど、すでに評価を得ている過去の作品を超えるようなものを作ることが容易いことではないのは誰の目にも明らかです。しかし残念ながら、そんなプレッシャーを跳ね除け、新たな作品を世に出そうというクリエイターはこれまでに現れませんでした。

過去作(『街』や『428』)からのファンとしては、約20年ぶりにまた実写系アドベンチャーゲームが遊べるという事実は喜び以外のなにものでもありません。

ただアドベンチャーゲームに限らず、これまでにも多々、リブートやリメイクなど往年の名作を現代に蘇らせた作品がありますが、なかには過去作とのコンセプトの違いやグラフィックスタイルの変更、大幅なゲーム性の入れ替えなどによって、オリジナルのファンにとって落胆するような作品があったのも事実です(もちろん、さまざまな刷新によって、より面白く昇華した作品もありますが……)。

ファンの熱量が高い作品ほど、時間の経過とともに思い出が美化され、愛着もいっそう深まっていく傾向があります。だからこそ、リブートやリメイク、あるいは精神的続編のゲーム開発は、クリエイターにとって取り組むハードルが高くなるのかもしれません。

しかし、そんな不安は(クラウドファンディングのサイトに記載された)イシイ氏の以下の言葉で吹き飛びました。

僕は『街』や『428』のファンの一人として、もう一度あの興奮を、あの衝撃を味わいたいのです。

そんな気持ちが、このプロジェクトを立ち上げさせたのかもしれません。

つまり、自らが"作り手"かつ"過去作(『街』や『428』)のファン"として、当時の熱量や空気を体験したいと述べています。

さらにイシイ氏は、最初にキャスティングであらい正和氏と北上史欧氏に声をかけた理由として、『街』と『428』を象徴するふたりが並ぶ姿を見てみたかった、と書かれていました。

それらの想いと、前述した「"群像劇"としてのゲームシステムの継承」、「シナリオとゲームシステムを最優先する開発姿勢」、「"利他的"なゲームデザイン」というコンセプトからも、本プロジェクトの土台がしっかり固まっていることが伺えます。

濃いファンたちが望む、「(過去作から)変えずに残して欲しい部分」があるとしたら、きっとこのようなコンセプトに紐づいた部分ではないかと思います。

また、イシイ氏が過去に総監督を務めた『428』では"複数の主人公がシンクロし合う物語"&"群像劇システムを実写で表現"といったコンセプトは『街』を踏襲しつつも、すべての主人公が同一の事件に関わり、それぞれの視点から物語が収束していくという、『街』とは異なるシナリオの魅力を見事に描き出していました。このように、過去作の良さを大切にしながらも、新たな挑戦に取り組む姿勢は高く評価されています。

さきほどのイシイ氏のメッセージは、熱心な"『街』や『428』のファン"にも、これから生まれる"新たなプレイヤー"にとっても頼もしい言葉に感じました。

筆者が本プロジェクトに期待すること

大手のゲームメーカーと組まずに開発することの強み

『街』や『428』にはさまざまなキャラクターが登場します。それは各キャラクターを演じる俳優さんたちの演技力とも相まってとても魅力的でした。

とくに筆者はセガサターン版の『街』に出てくる青井則生(通称:青ムシ)という変わり者のキャラクターが好きでした(余談ですが、セガサターン版のタイトルは『サウンドノベル 街 -machi-』)。青ムシは、いわゆるオタクと呼ばれる高校生で成人マンガ雑誌に連載を持つプロのマンガ家でもあります。そもそもは本編の脇役として登場しますが、隠しシナリオでは主役を務めており、そのシナリオだけは他と異なり実写ではなくアニメで描かれています。

セガサターン版は、倫理的に際どい演出も含まれていたため、のちに発売されたプレイステーション版(『街 〜運命の交差点〜』)では一部の表現が修正されました。たとえば、夜の公園でエアガンを使ってホームレスに迷惑をかけるシーンは、カップルに置き換えられ、お色気描写もマイルドな内容に変更されています。また、テキストやBGMには当時流行していたアニメやマンガのパロディがふんだんに盛り込まれており、そんな突き抜けた演出の数々は、いまでも鮮明に思い出せるほど衝撃的でした。

また『街』や『428』には、タレントのダンカン氏やなすび氏なども多数登場しますが、"青ムシ"のように特異でキャラ立ちしているキャラクターは珍しく、いまでもネタキャラとして愛されています。

こうした過去作の魅力を踏まえたうえで注目したいのが、本プロジェクトです。本作は、大手ゲームメーカーから発売されるものではなく、クラウドファンディングによって資金を集め、個人として開発される予定です。だからこそ、大手と組んでいたらNGになりそうな、尖ったキャラクターや大胆な表現が期待できるのかもしれません。

先述した青ムシの例は極端ではありますが、近年のインディーゲームに見られるような挑戦的な表現が、本作にも取り入れられることを期待しています。

なお、プロジェクト内のメッセージによれば、イシイ氏は「過去に複数のゲーム会社からプロジェクトの立ち上げについて話が来たが本質的なところの理解の相違ですべて途中で頓挫した」と語っています。

そうした経緯を経て立ち上がった本プロジェクトは、ゲームデザイナーのイシイ氏と、シナリオを手がける北島氏のタッグならではの魅力が、存分に発揮される場になることでしょう。

ファンが喜ぶ小ネタ

『428』「渋谷実写アドベンチャープロジェクト」
画像引用/うぶごえ(クラウドファンディング)

あらい正和氏が手に持っているコーヒー牛乳は『街』の主人公の雨宮桂馬の大好物。

『428』には、『街』の登場人物の"その後"をほのめかすような演出など、過去作のファンが思わずニヤリとする仕掛けが随所に盛り込まれていました。こうした関連ネタは、シリーズ(関連作品)を追いかけてきたプレイヤーにとって大きな魅力のひとつです。

今回の新作プロジェクトにおいても、『街』や『428』と直接的なつながりがない作品であったとしても、共通の舞台である渋谷を活かした演出や、小ネタとして過去作を連想させるような仕掛けが含まれていれば、ファンとしては非常に嬉しく感じます。

また、『街』や『428』には、"TIP"という特徴的な機能がありました。これは、ゲーム中に登場する青文字の単語を選択すると、その語句に関する解説が表示されるというものです。このTIP解説は情報性だけでなく、遊び心にも富んでおり、たとえば"ハチ公"や"グレーのISDN電話ボックス"など、当時の渋谷の名物や時代背景をユーモラスに紹介していました。新作にもこのTIP機能が搭載される可能性が高く、思わぬところで過去作とのつながりを感じられるような仕込みがあると、作品世界への没入感がより高まりそうです。

さらに、さきほどもお伝えしましたが、本プロジェクトで『街』と『428』を代表する主役のふたりがキャスティングされることが発表されました。さらにはイシイ氏のSNSでは、過去作に出演していた俳優たちとのやりとりが見られ、ファンの期待感はますます高まっています。

『428』で主役を演じた遠藤亜智役の俳優・中村悠斗氏や同じく主役を演じた加納慎也役の天野浩成氏など、いまでもこうした絡みや繋がりがある以上、いちファンとしてはどうしても出演を期待せざるをえません。今後発表されるであろう追加キャストが楽しみです。

終わりに……

イシイ氏は、クラウドファンディングのサイトの最下部に、次のようなメッセージを残しています。

皆さんも僕と一緒に"共犯者"になってください

この"共犯者"という言葉は、『街』や『428』に搭載されていたザッピングシステムと深く結びついています。ザッピングシステムとは、ある主人公の行動が、別の主人公のシナリオに影響を与えるという仕組みで、プレイヤーの選択が物語全体に波及していきます。

本プロジェクトのクラウドファンディングも、まさにそのザッピングのような構造を持っています。All-or-Nothing方式(目標金額に達しなければ資金が受け取れない形式)で行われる今回の支援では、支援者になった瞬間から、あなた自身がこの物語(プロジェクト)の主人公のひとりとなるのです。

そして、支援という行動が次々とザッピングのようにつながり、最終的に成功……すなわち新作のリリースという結末にたどり着けるかどうか、その行方は"共犯者"である私たちひとりひとりの手に委ねられているのです。

筆者は、そんなザッピングの結果が、見事"新作のリリース"に繋がることを心から願っています。

©1998 Spike Chunsoft Co., Ltd / 長坂秀佳 / 難波弘之
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