なぜ『パックマン』は世界中で愛される人気キャラクターになったのか?

"パックマン"の個性とその生き様に迫る

ライター /

重要なポイント

1980年に登場した『パックマン』は、それまでのゲームと異なり"食べる"をテーマにした独自の個性を持っていました。キャラクター性を重視したゲーム性、女性を意識したデザインなどが特長的で、北米で大ヒット。シリーズ化やリバイバルが進み、現在では文化的なアイコンとして世界中で広く認知されています。

1980年5月22日、東京・渋谷で行われたロケーションテストにて、一般公開された『パックマン』。"食べる"をキーワードに開発され、当時の他のビデオゲームとは明らかに一線を画する強い"個性"を持って生まれたビデオゲーム作品である。

パックマン

© Bandai Namco Entertainment Inc.

『パックマン』が持つ、3つの個性

『パックマン』は当時の他のビデオゲームとは明らかに一線を画する"個性"を持っていた。

そのひとつは、"攻撃をしないゲーム性"である。

『スペースインベーダー』(1978年/タイトー)の爆発的なヒットにより、当時のビデオゲームはエイリアン(敵)を撃ち落として"戦う"ゲームが多かったが、その流れを大きく変えたのは『パックマン』だった。

『パックマン』の"食べる"という斬新なコンセプトは、"戦う"ゲームが中心だったビデオゲーム市場に大きな影響を与え、その後へと繋がる"(攻撃をしない)新たな世界観を持つゲーム"の第一歩となっていったのである。

そして、ふたつ目は"キャラクター性を重視したゲーム"であったということ。

当時の他のゲームキャラクターたちは無個性に近く、記号的な存在のモノも多かった。しかし、『パックマン』に登場する4匹のゴーストには、それぞれ行動パターンが設定され、赤の"ブリンキー"は"パックマン"の後を追い、ピンクの"ピンキー"は先回りをするようにプログラムされている。そのような行動パターンから、「ブリンキーは追いかけ」、「ピンキーは待ち伏せ」といった性格が生まれ、特徴的なキャラクター性へと繋がっていった。

最後3つ目は、"女性を意識したゲームデザイン"。『パックマン』は、「ゲームセンターに女性やカップルを呼び込みたい」という発想から企画されている。そこで誰もが親しみやすい"食べる"という行為に着目し、本作のゲームデザインが考案されたという。

なお、『パックマン』というゲームタイトルの由来は、食べ物を"パクパク食べる"という擬態語からきている。これが本作のゲーム性"ドットイートスタイル"が生まれた経緯だ。

ほかにも、"ボタンを使わないレバーのみの操作"や、"プレイ中に休憩できるアニメーション演出(コーヒーブレイク)【下の画像】"など、カジュアルゲーマー(女性やカップル)向けの配慮が多数採用されている。

パックマン

© Bandai Namco Entertainment Inc.

これらの"個性"(コンセプト)が、これまでのビデオゲームにはなかったゲーム性、キャラクター性、そして、遊びやすさやカジュアルさなどを生み出し、のちにファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)をはじめとする、さまざまなゲーム機そしてパソコンに移植され、世界的なヒットへと繋がっていったのである。

各時代ごとの『パックマン』

『パックマン』のゲーム画面。

© Bandai Namco Entertainment Inc.

【1980年代前半】世界的大ヒットとなった『パックマン』!

1980年10月、北米に上陸した『パックマン』は日本国内以上の大ヒットとなる。日本では約1万5000台だった筐体の出荷台数が、北米ではなんとその20倍近い約28万台を記録。

1981年にATARIの家庭用ゲーム機"ATARI 2600"に移植されると、500万本を超える驚異的なセールスを叩き出す。

この大ヒットの流れは、世界中のパソコンやゲーム機を巻き込み、のちに数多くのハードで『パックマン』が登場する。

その人気はゲームだけに留まらずテレビアニメ化もされ、視聴率・約56パーセントを記録するほどの大人気となった(アニメの制作は、『チキチキマシン猛レース』や『トムとジェリー』などを手がけたアメリカのアニメ制作スタジオ"ハンナ=バーベラプロダクション"によるもの)。

さらに、ディスコサウンド『パックマン・フィーバー』のレコードは、全米ヒットチャートのビルボードで9位にランクイン。

この北米での圧倒的な『パックマン』旋風の勢いは止まらず、その現象は「パックマンフィーバー」と呼ばれるほどだった。

【1980年代後半】『パックマン』のシリーズ化が始まる!

『パックマン』の大ヒットを受け、ナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)からシリーズ続編が多数登場。

国内制作タイトルとして、『スーパーパックマン』(1982年)、『パック&パル』(1983年)、『パックランド』(1984年)、『パックマニア』(1987年)が発表される。

また、海外制作タイトルとして、『Ms. Pac-Man』(1982年)、『Baby Pac-Man』(1982年)、『Jr. Pac-Man』(1983年)がリリース。

なかでも『パックランド』は、ジャンプアクションゲームの原点ともいえる内容で、その後の国内外のゲームタイトルに強い影響を与えたといわれている。

また、1980年代といえば、国内でさまざまな家庭用ゲーム機やパソコンがリリースされ始めた年。

1983年には、任天堂からファミコンが発売され、社会現象になるほどのセールスを記録する。

ファミコンの登場以降、ゲームはエンターテインメントのひとつとして定着。ハード、ソフトともに充実し、その流れのなかで『パックマン』シリーズは、アーケードゲームの人気作品としてファミコンを含む数多くの家庭用ゲーム機やパソコンに移植されていった。

【1990年代】新旧の『パックマン』が活躍!

1990年代に入ると、ドットイートスタイルではない新しいかたちの"パックマン"を主人公にしたゲームが多数登場する。

パズルゲームと融合した『PAC-ATTACK』(1994年)や、"パックマン"を間接的に誘導するアクションアドベンチャー『ハロー!パックマン』(1994年)など、本来の『パックマン』のゲームスタイルとは異なる、"新ジャンルのパックマン"が登場。

それと同時に、レトロゲームとしての『パックマン』の再評価も始まることになる。

とくに話題になったのが、1997年に発売されたプレイステーションの『ナムコミュージアム』。

当タイトルはシリーズ化され、『パックマン』(1980年)だけでなく、『ミズ・パックマン』(1982年)や『パックランド』(1984年)、『パックマニア』(1987年)なども収録された。

このリバイバルによって、各種『パックマン』は新旧のゲームファンに支持され、ビデオゲームの1ジャンルとして再び広く認識されることになった。

【2000年代】"ギネス入り"した『パックマン』!

『パックマン』の発売から20年。このころには、"パックマン"が家族とともに出演するアクションゲーム『パックマンワールド』(1999年)や、他のナムコのゲームのキャラたちとともに登場するパーティゲーム『PAC-MAN FEVER』(2002年)、はたまたカーレーサーとして活躍した『PAC-MAN World Rally』(2006年)など、いままで以上に"パックマン"のキャラクター性をフィーチャーした作品が多数誕生する。

その一方で、『パックマン』の特徴であるドットイートスタイルのゲーム性に重点を置いた新作も登場。ナムコと任天堂のコラボレーションで誕生した対戦型の『パックマン VS.』(2003年)や、原点回帰をコンセプトに制作された『パックマン チャンピオンシップエディション』(2007年)などだ。

このように2000年代は、"キャラクター性を重視した作品"と、"(オリジナルのゲーム性を重視した)ドットイートスタイルの作品"、このふたつが誕生する流れが目立った。

そして、2005年には"もっとも成功した業務用ゲーム機"としてギネス・ワールド・レコード社より認定を受け、"ギネス入り"を果たすことになる。

【2010年代】"文化人(キャラ?)"としての"パックマン"

2010年5月には誕生30周年を迎えた『パックマン』。30周年プロジェクトとして、パーティーゲーム『パックマンパーティ』(2010年)、4人対戦が可能なアーケードゲーム『パックマンバトルロイヤル』(2011年)などの新作ゲームがリリースされたほか、国内では2014年に全編3Dのテレビアニメシリーズ『パックワールド』が放送された。

また、2012年11月に、アメリカの雑誌『TIME』が発表した"歴史上もっとも偉大なビデオゲームを100本"に『パックマン』が選出。さらに、同じく2012年には、ゲーム業界で初めて、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に『パックマン』が収蔵されることが決定するなど、文化的・芸術的な側面を評価されることが、これまで以上に多くなっていった。

『シュガーラッシュ』(2013年)や『ピクセル』(2015年)など立て続けに、ハリウッド映画に"パックマン"が出演したのもこのころである。

【2020年代】より身近な存在となっていった"パックマン"!

2020年に『パックマン』が生誕40周年を迎えるにあたり、2020年(の1年間)を『パックマン』アニバーサリーイヤーとし、「Join the PAC "仲間に加わろう"」をテーマに『パックマン』を世界中でより身近な存在として親しんでもらうためのさまざまな企画を展開。

テクノミュージシャンのケン・イシイ氏が手掛けた『パックマン』40周年公式テーマ楽曲『JOIN THE PAC』のリリースをはじめ、人気アパレルブランドとのコラボレーションなどを行う。

また、"ニューBMW 2シリーズ グラン クーペ"の広告に"パックマン"が採用されるなど、『パックマン』のIP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)を活用した、さまざまなライセンス展開も数多く見られた。

世界的なカルチャーアイコンへと昇華した『パックマン』

『パックマン』のタイトル画面。

© Bandai Namco Entertainment Inc.

このように『パックマン』は、さまざまなメディア・商品・文化など、多方面の分野に影響を与えつつ、多くの人々に受け入れられていったのである。

ビデオゲームという枠を飛び出し、年齢、性別、国境を超え、多くの人々に愛される世界的なカルチャーアイコンへと昇華した。

シンプルで普遍的なゲーム性はもちろん、当時のビデオゲームに革新をもたらした独創的なゲームデザインと世界観、そしてキャラクター性は、まさに今日に続くゲーム業界発展の礎を築いたといっても過言ではないのである。

(C)Bandai Namco Entertainment Inc.

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