極上の恐怖を纏う"727 Not Hound"によるインディーホラーゲームの吸引力

背筋が凍る“気持ち悪さ”

ライター /

重要なポイント

日本のインディーゲームクリエイター"727 Not Hound"が手掛けるホラーゲームは、得体の知れない恐怖と気持ち悪さが特徴のひとつ。独特のグラフィック演出や、短時間でリプレイ性の高いゲームプレイなどが多くのプレイヤーを魅了している。

あなたにとって、極上の恐怖とは?

人によって回答は異なるだろうが――筆者としては、根底に"気持ちの悪さ"が潜むものがいい。

得体がしれない、気味が悪い、理解ができない……辿り着く感情はなんでもいいが、そこに「なんか、気持ちわるッ」と感じる要素があると、よりその恐怖が色濃く自分のなかに残るような気がするのである。

そんな"気持ちの悪さ"をこの上ないぐらいに味あわせてくれる、日本のインディーゲームクリエイターがいる。

それこそが"727 Not Hound"。短編ながらも、確かな怖さと繰り返しプレイしたくなる要素を兼ね備えたホラーゲームを数多く送り出している。

口から強制的に「怖い」が引き出される、雰囲気抜群のグラフィックが魅力

"727 Not Hound"は、おもにSteam(PCゲームを販売しているプラットフォーム)で活動している個人ゲーム開発者だ。彼の作品は非常に独創的で……なんて紹介から始めてもいいのだが、まずはシンプルにいくつかのゲーム画面を見てもらおう。ライターの身で言うのもアレだが、恐らくそのほうが伝わりやすい。

『Exorcist: Reviewer of Minds』のゲーム画面。悪魔に憑りつかれた子どもがこちらを見ている。
©727 Not Hound

"727 Not Hound"が制作したホラーゲーム『Exorcist: Reviewer of Minds』。悪魔に憑りつかれた子どもがこちらを見ている。

『ヴィクトルズ・テスト・ナイト』のゲーム画面。恐ろしい化け物が展示されている
©727 Not Hound

同じく"727 Not Hound"制作の『ヴィクトルズ・テスト・ナイト』。恐ろしい化け物が展示されている。

“727 Not Hound”制作のタイトル『悪夢のような日々でした』のゲーム画面。設定欄の横に、恐ろしい笑みが貼りついた顔が浮かんでいる。
©727 Not Hound

『悪夢のような日々でした』。ゲーム設定画面の横に恐ろしい笑みが貼りついた顔が浮かんでいる。

冒頭で「気持ち悪いのが好き」ということを述べたが、"727 Not Hound"はこの気持ち悪さ……ひいては"恐怖"の演出がものすごく上手い。プレイしていて「あっ、無理だわコレ」と感じるギリギリのラインを攻めてくるような雰囲気作りが絶妙なのである。

それらの雰囲気を形作る要因はいろいろとあるが、いちばんはやはりビジュアル。ゲームのグラフィックによるダイレクトな怖さが大きい。有機的な理外の化け物の描き方、無機的な背景やオブジェクトの描き方、そのどちらをとっても非常に気持ち悪く、本作の恐怖を支える大事な要因になっていることは疑いようがない。

“727 Not Hound”制作のタイトル『ヴィクトルズ・テスト・ナイト』のゲーム画面。中央で恐ろしげな怪異が宙に吊られている。
©727 Not Hound

だからこそ、まずはゲーム画面を見てもらったわけだ。これらを見てなんとなくピンときたのであれば、ぜひともすぐにプレイしてみてほしい。写真は『ヴィクトルズ・テスト・ナイト』の1シーン。

ホラーには"静と動の怖さ"があると思う。前者は作品全体から漂ってくるような、舞台設定や背景などから感じるじんわりとした恐怖。後者はジャンプスケア(急に「ドーン!」と驚かしてくるタイプのホラー演出)やこちらを襲ってくるナニかなど、直接的な危害に繋がる鮮烈な恐怖。ただし、静だけでは意外性が少なく、動だけではそのうちに慣れてしまう。ふたつがキレイに組み合わさってこそ、「ただ前に進むだけで勇気が必要」とさえ思ってしまうような"極上の恐怖"に辿り着く。

"727 Not Hound"のグラフィックから醸し出される雰囲気、とくに静の恐怖においては完璧に近いものだ(筆者が求める範疇では)。恐ろしく、おぞましく、得体が知れず……そしてなにより気持ちが悪い。生理的な"嫌"に直接触れてくるような、そんな感覚がたまらなく好きだ。

『The Children's Friend』のゲーム画面。大きな目玉の下に、“見つかった”と書かれている。
©727 Not Hound

大きな目玉の下に、"見つかった"と書かれた『The Children's Friend』のゲーム画面。

とはいえ先にも言ったとおり、静の恐怖だけでは意外性がない。ただグラフィックが恐ろしいだけのカカシが突っ立っているだけならば、そのうちに慣れるというもの。いつソレに襲われるかわからないからこそ、(意外性のある)雰囲気としての怖さが輝くのである。

なのでもちろん、"727 Not Hound"も動の恐怖の側面がある。"727 Not Hound"作品の基本構造としては怪異vsプレイヤーといったシチュエーションが多く、なにかしらに襲われたり逃げたり戦ったりする。そのなかのひとつには、プレイヤーがエクソシストとなって悪魔を祓うといった内容の作品もある。

『Exorcist: Reviewer of Minds』のゲーム画面。5つの扉が並び、その上にはこちらを見て笑う不気味な顔がある。
©727 Not Hound

『Exorcist: Reviewer of Minds』はプレイヤーがエクソシストとなって、悪魔に憑りつかれてしまった子どもたちを救う。

とはいえ、いわゆるジャンプスケアのような、唐突に出てくる驚かし要素は少ない。基本的には雰囲気やシチュエーションの恐ろしさでじわじわとプレイヤーをいたぶりつつ、要所要所で的確にコチラを驚かしてくる、という印象だ。「ホラーは好きだけどビックリ系はなあ……」という人には、本クリエイターのゲームをぜひともオススメしたいところだ。

“727 Not Hound”制作のタイトル『The Children's Friend』のゲーム画面。“眠れる子供の魂”と戦うかどうかサンタが問いかけてきている。
©727 Not Hound

サンタになって、いい子にはプレゼントを悪い子にはチェーンソーを食らわせる『The Children's Friend』という、ちょっとコミカルなゲームもある。

でも、怖いだけじゃない! 短時間かつリプレイ性のあるプレイ体験がクセに

ここまでは"727 Not Hound"が制作する作品のホラーな面だけを紹介してきたが、個人的に推したいポイントがもうひとつ。それは、"ゲームプレイがおもしろい"という非常にシンプルな部分である。

世で有名なホラーゲームは、だいたいが探索メインかつアクション要素があって~……みたいなものも多い。もちろんそれが悪い、というわけではなく、むしろ先ほど語った"静と動"を味あわせるのにもっとも向いたフォーマットだとすら感じている。

ただ、"727 Not Hound"のゲームはそういったメインストリームとは少し違う。1プレイが短時間で遊べて、かつランダム要素が豊富という、リプレイ性に優れた内容になっている作品が多い。

“727 Not Hound”制作のタイトル『Exorcist: Reviewer of Minds』のゲーム画面。“ライト”と書かれた作中で使えるカードを新たに入手した場面。
©727 Not Hound

いわゆる“ローグライト”的なものだと思ってくれればOK。もちろん厳密に言えば違ってくるとは思うが、概ねそんな感じ。写真は『Exorcist: Reviewer of Minds』。

美術館を探索し、異常のある美術品を見つける……いわゆる『8番出口』ライクである『ヴィクトルズ・テスト・ナイト』。悪魔の真名を探るため、1プレイのなかでランダムな呪文を引きながら進んでいくデッキ構築型ローグライクのような『Exorcist Reviewer of Minds』。被検体をセンサーにつなぎ、その結果から寄生虫に取りつかれた個体を探し出し処刑する、"人狼"的推理型ゲーム『悪夢のような日々でした』。

どれも1プレイが短時間(だいたい15~30分程度)かつ独特の魅力を持ったプレイフィールが楽しめる。さらにそこに、"極上の恐怖"体験までついてくるのだから恐ろしい。

“727 Not Hound”制作のタイトル『悪夢のような日々でした』のゲーム画面。クギのようなものを撃ち込まれた人が機械のそばでうずくまっている。
©727 Not Hound

個人的なオススメは『悪夢のような日々でした』。今回紹介した作品のなかではダントツで怖く、さらに推理ゲームとして遊んでもおもしろい。

“727 Not Hound”制作のタイトル『Exorcist: Reviewer of Minds』のゲーム画面。悪魔との戦闘シーン。
©727 Not Hound

怖さはソコソコ。かつゲームプレイ的におもしろさがわかりやすいのは『Exorcist Reviewer of Minds』だろうか。執筆時現在(2024年8月)における最新作ということもあり、内容もかなり洗練されている印象を受ける。

しかもリーズナブルなお値段で、いざ恐怖のどん底へ

"727 Not Hound"が制作する作品のほとんどは、破格の値段(通常価格が1000円以内)というのもありがたい。また、全体を通して遊んだ際のボリュームはそこまで大きくはなく、ゲームバランスも「おや?」と感じる部分もちょこちょこと目につく。

ただ、それを補ってあまりあるほど"インディーホラーゲーム"という分野において、ここまでゲームプレイのおもしろさと、値段のリーズナブルさ、そしてなにより恐怖の質、そのどれもが高いレベルで融合しているのは"727 Not Hound"の作品をおいてほかにない。……なんて言い切るのはちょっと怖いが、それでも言い切りたくなるぐらいには、このクリエイター(パブリッシャー)が作るゲームに筆者は惚れてしまっている。

本記事を読んで、またはどれかの画像を見て、少しでも琴線に触れたのならばぜひとも一度遊んでみてほしい。逃れられない恐怖の沼に、あなたが沈んでしまう日を楽しみに待っている。

©727 Not Hound

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