
重要なポイント
- 『ファイナルファンタジーX』の主人公ティーダと父親ジェクトの物語は、巨大な怪物シンの打倒を目的に描かれている。
- シンは、大都市ザナルカンドを守るために、1000年まえのザナルカンドの支配者エボンによって生み出された。
- ジェクトは、シンの根源であるエボン=ジュに憑依されて、(第2の)シンになってしまう。
『ファイナルファンタジーX』(以下、『FFX』)は、主人公のティーダが諸悪の根源である怪物シンを倒すために、ヒロインのユウナとともにスピラという世界を旅するRPGです。
なかでも、主人公ティーダの父親である"ジェクト"は、物語のカギである究極召喚および怪物シンと関わりのある重要なキャラクターのひとりです。
本記事では、そんなジェクトが怪物シンの根源であるエボン=ジュに憑依されて、"シンになってしまった理由と最後"について解説していきます。
シンはどうして誕生したのか?
シンが生まれた理由を説明するまえに、まずは本作の歴史からお伝えしたい。主人公ティーダが旅をはじめる1000年まえ、召喚術で栄えた"ザナルカンド"と、機械技術で栄えた"ベベル"の2国(都市)がありました。
この2国は思想の違いから戦争が勃発。その戦局は兵器が強力なベベルが優勢になり、ザナルカンドは壊滅の危機に瀕してしまいます。
ザナルカンドの統治者である召喚士エボンは、滅びゆくザナルカンドの危機を脱するために、民衆の魂を肉体と分離させて、永久に夢を見るだけの"魂の存在"に変えてしまいます。
つまり、民衆の夢を召喚術で具現化させた国・"夢のザナルカンド"を作りあげたのです。そして統治者の召喚士エボンは"ジュ=パゴダ"という石碑に魔法の印を刻み、自らを封印したのでした。その石碑に封印された召喚士エボンの魂を"エボン=ジュ"と呼びます。
"夢のザナルカンド"をわかりやすく説明すると、"エボンの愛した国や民を永遠に保存したい"という、その彼の想いを具現化した幻想世界ともいえるでしょう。
そして、本作に登場する怪物"シン"は、"エボン=ジュ"と"夢のザナルカンド"を敵国ベベルから守る"鎧"の役目として、エボンによって生み出されました。シンは、国を守るため敵国ベベルを破壊し尽くしました。しかし、破壊後も「夢のザナルカンドを守り続ける」という意志がシンを突き動かしており、"脅威とみなす機械(という存在)"をすべて破壊対象とし続けたのです。
そのため、戦後も世界中の"機械の殲滅"を遂行し、シンの破壊活動は止まらなかったのです。
ジェクトの生い立ちと旅の目的
戦争の1000年後に登場するジェクトと息子の主人公ティーダは、エボンが残した"夢のザナルカンドの住人"です。彼らにとっては出生国のため、かつてのザナルカンド民の夢を具現化させた国という認識はありません。スピラを旅する内に、ザナルカンドは生前の戦争で滅びており、エボンの創った夢の世界であることに気付きます。
ジェクトは、国内の人気スポーツであるブリッツボールの選手でした。ジェクトは陰の努力家であり、海の浜で自主的な練習を重ねていたのです。しかし、練習中にシンと遭遇して"夢のザナルカンド"から"スピラ"に飛ばされてしまうことになります。
スピラに飛ばされてからのジェクトの目的は、妻や息子ティーダがいる"夢のザナルカンド"に帰ること。目的達成のために、スピラで出会った召喚士ブラスカとボディーガードのアーロンと旅をはじめます。
スピラの人間である召喚士ブラスカは、シンを倒すために各地を旅しながら召喚獣を操るための修行をしています。エボンの教えに従い召喚士は、聖地巡礼⇒召喚獣集め⇒究極召喚の習得を行う旅をしているのです。
召喚士の最終目的は"究極召喚を習得してシンを倒す"こと。そんなブラスカのボディーガードとして、ジェクトは旅に同行します。
教義は、ザナルカンドの領主エボンが広めたとされていて、シンは人の罪の象徴であり、規律を守り罪を償えばシンのいない平和が訪れると教育されています。"罪"とは機械を扱う者のこと……つまり"罪を償う"とは機械を殲滅することなのかもしれません。
筆者が感じたのは、"エボン教"の教えがマインドコントロールに似ているということ。エボンに都合がよい究極召喚システムと、嫌いな機械を潰せという思想をうまく教徒に植え付けているようにも感じます。
旅の末に知る究極召喚の真実とジェクトがシンになった理由
長い旅路の末にジェクト一行は、シンを倒す唯一の手段といわれている究極召喚には、召喚士ブラスカの"命"と"信頼している人物"を媒体にする必要があることが判明します。旅の過程で召喚士ブラスカとジェクトの信頼関係が構築されたこともあり、ジェクトが究極召喚の対象になることを申し出ます。
ジェクト自身は、旅の途中で"夢のザナルカンド"に帰還できないことを薄々感じていました。そのため、究極召喚の媒体になることを誓ったのです。
旅の同行者だったアーロンに、"夢のザナルカンド"にいる息子の主人公ティーダを託して、自らその役を買って出たのでした。その結果、ジェクトは究極召喚獣となり、見事シンを打ち倒します。しかし、一件落着とはなりませんでした。
なぜなら、シンの魂ともいえる"エボン=ジュ"は死んでいなかったからです。今度は、ジェクトが変身した究極召喚獣に"エボン=ジュ"が憑依して第2のシンが生まれたのでした。
これが"ジェクトがシンになった理由"です。
そして新たに誕生したシンは、数年後に主人公ティーダが住んでいる"夢のザナルカンド"を襲撃します。シンが襲撃してくるとき、成長したティーダは17歳でブリッツボールの選手でした。ティーダは試合中にシンに襲われるのですが、その避難中にアーロンと遭遇。
遭遇したアーロンに、ティーダは「いっしょに逃げよう」と訴えるのですが、なぜかアーロンはシンがいる方向にティーダを導きます。
シンの襲撃を受けて、壊滅寸前の道路を走っていると"巨大な水球"が現れて、水球にティーダたちは吸い込まれてしまいます。水球は、シンが作り出したスピラへのワープゾーンのようなもので、ティーダもそれがきっかけとなりスピラに誘われるのでした。
オープニングシーンにおいて、シンの襲撃時にアーロンがシンに向かって「いいんだな?」と問いかけている場面があります。最初は、アーロンの意図がわかりませんでしたが、シンの正体がわかってから見ると、「ティーダを巻き込んでいいんだな?」とジェクトに確認していたのかもしれません。
シンになったジェクトの最後
スピラに導かれた主人公ティーダは、ヒロインの召喚士ユウナ(ブラスカの娘)と出会います。ジェクトや召喚士ブラスカと同じように、シンを倒すために究極召喚の習得を目指す旅がはじまります。
ティーダは旅の途中で究極召喚に隠された真実を知ります。それは、"ユウナも父ブラスカと同じように究極召喚で死ぬ"という事実です。
ユウナは、はじめから死を承知のうえ、究極召喚を習得するために旅していたことをティーダは知ります。何度かティーダは、ユウナに旅をやめさせようと試みるのですが彼女の意思は揺らぎませんでした。
究極召喚を習得するために、ザナルカンド遺跡を訪れた一行は、衝撃の事実を知ります。"シンは究極召喚をしても、時間が経つと復活する"という事実です。
つまり、スピラの歴史のなかで<何度も召喚士に修行をさせて究極召喚をし、シンが復活しては究極召喚獣で歴代のシンを倒す>という終わりなき戦いを繰り返していたのでした。
その事実を知ったユウナは、気休めの平和しか生まない"究極召喚を拒否"して他の方法を探すことになります。そして旅の果てに、祈り子から"シンの根源であるエボン=ジュ"は召喚獣に憑依して、復活を繰り返していることを知ります。
その真の解決策が、"シンの体内にいるエボン=ジュを倒すこと"でした。解決策を知ったティーダ一行は、かつて召喚士エボンが"エボン=ジュ"を封じた石碑・"ジュ=パコダ"はシンの体内にあるため、飛空艇でシンの体に入ることを試みます。
シンの体内の奥に進むと、怪物シンの意識に残存しているジェクトに遭遇します。シンになったいまでもなお、ジェクトの意識は残っており、シンに意識が乗っ取られるまえに自分を殺すようティーダに要求します。
ティーダは、苦闘の末にジェクトを打ち倒します。
瀕死の父親を抱えているティーダに対し、「泣くぞ、すぐ泣くぞ、絶対泣くぞ、ほら泣くぞ」と茶化すジェクト……それに対して「大嫌いだ!」とティーダが泣きながら叫ぶ場面は、涙腺が崩壊する名シーンです。
ジェクトの意識が完全に消えたあとは、シンの根源であるエボン=ジュとの最終決戦がはじまります。エボン=ジュを撃破した末、ジェクトおよびシンの存在は完全に消滅するのでした。
じつはティーダの幼少期、ジェクトが母親といる光景をみて"母親を独占されていると勘違いして泣いていた"ことがありました。試合や練習で忙しいジェクトにとっては、家族で過ごせる貴重な時間だったのかもしれません。その過去を思い出して、小さいころの泣き虫なティーダを重ねて、懐かしみながらセリフを選んだのかもしれません。