“棚から降ってくるぼたもちはめちゃくちゃうまい”と証明した『Balatro』のきらめき

ギャンブル的な喜びを極めて健全に表現!

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重要なポイント

2024年2月の発売から半年も経たずに、約200万本を売り上げた人気インディーゲーム『Balatro』。役を揃えるトランプゲームのポーカーをベースにしたデッキ構築型ローグライトだが、その魅力は"ギャンブル的なおもしろさをすくい取った一瞬のきらめき"にある。

ぽちぽちボタンを押しているだけで脳が気持ちよくなるゲーム『Balatro』をご存知だろうか。

こう書くと何か危険な予感を覚えるかもしれないが、安心してほしい。『Balatro』はむしろ、そういう"リスクある遊びを極めて倫理的に楽しめるようにした一作"なのだから。

『Balatro』は、カナダのゲーム開発者LocalThunk氏が開発したポーカーのようなゲームだ。2024年2月の発売から半年も経たずに約200万本を突破するヒット作となっている。

ジャンルとしてはデッキ構築型ローグライトであり、最大の魅力は"プレイしていると脳から快感が溢れ出る"ところにある。

"ジョーカー"と"劇的な演出"が快楽を運んでくる

『Balatro』ゲーム画面。目標スコア600のフックに挑戦し、ツーペアを出そうとしている。

© 2024, Playstack and LocalThunk, all rights reserved

ルールは簡単だ。配られた手札を交換しつつ役を作って出すだけでよい。同じ数字のカードが2枚あるワンペア、同じスート(マーク)のカードが5枚揃ったフラッシュなど、このあたりはポーカーと同じである。

難しい役であればあるほどスコアが高くなり、規定の手数までに一定スコアに到達できればクリアとなる。

『Balatro』ショップ画面。フラッシュを出すと倍率が2倍になる「トライブ」のカードを選択している。

© 2024, Playstack and LocalThunk, all rights reserved

ひとつのステージをクリアしたあとはショップが登場し、特別な効果を持ったカードが購入できる。なかでも重要なのが"ジョーカー"だ。

ジョーカーはまさしく切り札で、さまざまな種類がある。たとえばスコアの値や倍率を増加させたり、手札の数を増やしたり、はたまた特定条件を満たすことでショップで使えるお金が増えたりもする。

そして、そのジョーカーをうまく組み合わせるとスコアが大爆発するのだが、これが脳に響く快感を生み出すのだ。

カードを出せば「ポン、ポン、ポン」と効果音を鳴らしながらジョーカーによって倍率が上がるうえ、おまけにジョーカーが発動すればするほどそのテンポが早くなる。それに合わせて画面が揺れ、スコアが何十倍、いや何百倍に増えていくうえ、スコア表示が燃えさかっていくのである。

スコアが上昇する期待を煽りまくる演出がようやく終わったと思ったら、爆発的なスコアが流れ込んできてプレイヤーの脳にも快感があふれる、といった寸法なのだ。

『Balatro』ゲームオーバー画面。最終スコアは2,956,953,600。
© 2024, Playstack and LocalThunk, all rights reserved

ハマればスコアが29億を超えるケースも。むちゃくちゃである。

最初こそ役を揃えるためにいろいろ頭を捻るのに、そのうち特定の役を出したら確定勝利になったり、場合によっては"適当に1枚出しただけで倍率がバカになって勝てる"ことすらある。

おもしろいもので、人間はこういうギャンブル的な演出を見ると否が応でも興奮してしまう。あえて悪しように言うのであれば、感覚をハックされているのだろう。

ギャンブル的なおもしろさに焦点を当てたがゆえの特徴

『Balatro』ジョーカー一覧の画面。

© 2024, Playstack and LocalThunk, all rights reserved

いま"ギャンブル的"と書いたように、『Balatro』は運によるところが大きい(≒技術介入があまり多くない)。"どの役を狙えば勝ちやすいか"といった技術介入の余地もあるにはあるし、ゲームの難易度設定が低ければ問題ないのだが、難度が上がれば上がるほど運が重要になってくる。

とくにどのジョーカーが手に入るかは重要で、ものすごく強いものであればそれを入手した段階で"勝ち確"といえるし、うまくシナジーがあるものが手に入れば楽になる。逆にいうと、そうでなければ苦しむし、テクニックでどうこうならない部分も出てくる。

この点について"リプレイ性が低い(繰り返しプレイする動機に欠ける)"と指摘する声もあるのだが、筆者はそう解釈はしていない。むしろ『Balatro』はギャンブル的な快感を表現するからこそ、技術介入の要素が少なめなのである。

『Balatro』新しいジョーカーがアンロックされた画面。
© 2024, Playstack and LocalThunk, all rights reserved

『Balatro』は特定条件でジョーカーがアンロックされるほか、チャレンジモードがあったりと、リプレイする要素はきちんとある。ただ、それらにリプレイさせる強い動機があるかは確かに微妙なところだ。

たとえるならば『Balatro』は、"ぼたもちを食べるため、買い物に行くのではなく、棚の下で待っている"ようなものである。そう、棚からぼた餅が落ちてくるから、労力をかけずに思いがけない好運を得るからこそ、楽しく脳がしびれるのである。

『Vampire Survivors』(ヴァンパイアサバイバーズ)も宝箱を開けるときに激しい演出があってプレイヤーを喜ばせるが、あのゲームは全体を通しての蓄積・収集も重視している。つまり運よく当たりが出たことは確かに嬉しいのだが、それだけにフォーカスを当てているわけではない。

いわば『Balatro』は、そのギャンブル的な喜びを重視しているゲームといえる。プレイヤーは手元にあるトランプでポーカーするだけで、つまり本当にぽちぽちしているだけに過ぎない。けれども、うまくいけばジョーカーが勝手に働いてくれて、とんでもないスコアを運んできてくれるわけだ。

これを怠惰な喜びと非難する人もいるかもしれない。しかしそう言えるのは、"なんか運よく、宝くじ当たんねえかな~"などと一度も思ったことのない生真面目な人間くらいのものだろう。

"運良く労せず何かを得た"という一瞬のきらめき

『Balatro』出したカードのスートがすべてハートでフラッシュになっている場面。

© 2024, Playstack and LocalThunk, all rights reserved

そして、もうひとつ書いておきたいのは『Balatro』は倫理的である、ということである。

当然ながら、ギャンブル的な喜びを表現したものはほかにもある。それこそギャンブルそのものをやってもいいし、いわゆる"ガチャ"もそう解釈してもおかしくはない。

だが、それらの遊びにはリスクもある。何も得られずお金を失う可能性もあるし、節度のある遊び方であれば問題ないが、一歩踏み外せば大きなデメリットもありうる。

とはいえ、それらの遊びにも確実におもしろさはあるわけだ。ならば、その上澄みだけをうまくすくいとった作品があればいいのではないか? そう、まさしく『Balatro』である。

『Balatro』タイトル画面

© 2024, Playstack and LocalThunk, all rights reserved

本作は買い切り型ゲームなうえに、開発者が「IPをいかなるギャンブル会社やカジノに販売・供与しないように定めた」と明言している。射幸心は煽るが、財布に穴を開けてお金を落とさせるつもりはない。極めて健全にギャンブル的なおもしろさを味わえるゲームなのだ。

もちろん、お金を賭けるような遊びではないので、その瞬間的な喜びは持続しない。それが繰り返しプレイする動機の弱さにも繋がるわけだが、はっきりいって後腐れなくそういう喜びを味わえたほうがむしろいいだろう。

『Balatro』は、はじめてスコアが爆発してクリアできた瞬間が一番おもしろい。その後は惰性になりがちだ。だが、その一瞬のきらめきを見て去っていくことができるからこそ、素晴らしいゲームなのである。

© 2024, Playstack and LocalThunk, all rights reserved

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