Ascending Inferno

『Florence』&『ダレカレ』の共通点とそれぞれの魅力をレビュー! 短時間で物語を紡ぐプレイヤー体験の面白さとは?

似ているようで異なる2作品の魅力と、インタラクティブノベルの可能性

ライター /

重要なポイント

インタラクティブノベル『Florence』と『ダレカレ』は、物語を体験しながら進行する新しいゲームジャンル。それぞれ異なるテーマと体験を提供しています。

『Florence』は、シンプルな操作で恋愛の高揚感や日常の変化を描き、プレイヤーに前向きな気持ちをもたらします。一方、『ダレカレ』は"人間の認知の歪み"をテーマに据え、深い思考と感動を促す重厚なストーリーを展開します。

映画や小説とも異なる"物語を追体験する魅力"は、これからの時代、多くのプレイヤーに求められるのではないでしょうか。

2025年7月に講談社から発売された、インタラクティブノベル『ダレカレ』。中国のゲームアワード"GAME CONNECTION x CHINAJOY 2025 INDIE GAME AWARDS"では"Best Simulation Game部門"最終選考作品に選出され、発売まえから国際的にも注目を集めていたインディーゲームだ。

発売後も、Steamで486件中94パーセントの高評価を獲得し(2025年9月15日現在)、ブログや配信などでも好意的な声が多く見られる。

そんな『ダレカレ』は、オーストラリアのインディーゲームスタジオ・Mountainsが開発し、2018年にアンナプルナ・インタラクティブより発売されたインタラクティブノベル『Florence』に着想を得ているそうだ。

『Florence』もThe Game Awards 2018モバイルゲーム部門でベストモバイルゲームを受賞、Steamで13245件中93パーセントの高評価を獲得(2025年9月15日現在)するなど、世界的に話題となっている作品である。

本記事では、両作品を実際にプレイした筆者が、それぞれの魅力を掘り下げていく。そして、プレイ体験を通じて見えてきた"インタラクティブノベル"というジャンルの可能性についても考えていきたい。


注意
※本記事には一部ネタバレを含みます。

『Florence』と『ダレカレ』はどんなゲームなのか?

まずは、それぞれのゲームの概要を紹介したい。2作品ともにインタラクティブノベルと呼ばれるジャンルで、物語を読むだけでなく、操作や選択を通して"体験"そのものに関わる点が特徴

クリアー想定時間はどちらも1時間以内。短時間ながら濃密な感情の起伏を描き、映像や音楽と合わせて強い没入感を生み出す。小説や映画とは異なる、ゲームならではの物語表現を楽しめるジャンルだ。

【『Florence』とは?】音楽とイラストでプレイヤーの心を彩り、恋のときめきや痛みを描く

『Florence』恋に落ちる

© 2020 Studio Mountains PTY LTD. Published by Annapurna Interactive under exclusive license. All rights reserved.

『Florence』は、25歳の女性、フローレンス・ヨーが主人公のラブストーリー。

フローレンスは、終わりのない仕事、睡眠、SNSに時間を喰われる単調な毎日に行き詰まりを感じていた。しかしある日、チェリストであるクリシュに出会い、恋に落ちることで彼女の日々は色づいていく。クリシュの恋を通し、自分自身の夢や生き方を見つめ直していく彼女の姿には、優しく背中を押される。

『Florence』のギミック

© 2020 Studio Mountains PTY LTD. Published by Annapurna Interactive under exclusive license. All rights reserved.

作品内にセリフや文字はほとんど登場せず、プレイヤーはパズルのように日常のアイテムや風景を動かしたり、会話の断片をつなぎ合わせたりすることで、イラストが展開し、物語が静かに進行していく仕組みになっている。さらには恋の盛り上がりや気持ちの揺れ動きに合わせた音楽が、より物語への没入感を高めていく。

『Florence』商品概要

  • プラットフォーム:Steam、Nintendo Switch、App Store、Google Play Store
  • 対応言語:日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語など22言語
  • ジャンル:インタラクティブノベル
  • 価格:825円(税込)
  • プレイ人数:1人
  • 想定プレイ時間:約1時間
  • 開発:Mountains
  • パブリッシャー:アンナプルナ・インタラクティブ

【『ダレカレ』とは?】すべての章が繋がった時に深い感動に包まれる重量感のある作品

『ダレカレ』謎の男が家にいる

©TearyHand Studio LLC/Kodansha.Ltd.

『ダレカレ』のテーマは"認知の歪み"。物語は3つの章で構成され、それぞれまったく異なる状況が描かれる。

第1章は、いつもと変わらない朝から始まる。少女が目を覚ますと、父親の姿は消え、代わりに見知らぬ男がいた。そこから展開されるのは、かみ合わない会話や、男が差し出す正体不明の薬......と、不穏で恐怖を帯びた第1章だ。ホラーゲームのような緊張感にも満ちている。

ところが第2章では、少女が成長し恋に落ちる瞬間や、父と共に自宅で夫を待つ様子が描かれる。

さらに、第3章では、また全く異なる自宅での場面が描かれる。

章ごとに作品の趣が変化し、プレイヤーは困惑しながらも物語に引き込まれていく。

『ダレカレ』少女の心情

©TearyHand Studio LLC/Kodansha.Ltd.

さらに作品内では、少女の心情や置かれた状況を映すセリフが随所に登場する。プレイヤーは画面上のギミックを操作しながら、会話をしたり、料理や家事をしたり、あるいは見知らぬ男から逃げたりと、さまざまな体験をすることになる。

ときには操作が複雑な場面もあり、単なる読み物ではない"ゲームとしての手ごたえ"も十分だ。

そして全3章を終えたとき、少女の行動や置かれた状況、さらにはこれまでのゲームギミックまでもがひとつの線で結びつき、物語全体が鮮やかに姿を現す。その瞬間には、驚きだけでなく、胸の奥を揺さぶる深い感動が訪れる。

『ダレカレ』商品概要

  • プラットフォーム:Steam、Nintendo Switch
  • 対応言語:日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語
  • ジャンル:インタラクティブノベル
  • 価格:600円(税込)
  • プレイ人数:1人
  • 想定プレイ時間:約1時間
  • 開発:TearyHand Studio
  • パブリッシャー:講談社

どちらを遊ぶか悩む人へ、それぞれの魅力や相違点を紹介!

一見すると似ている『Florence』と『ダレカレ』。

柔らかなイラストや美しい音楽などの共通点はあるものの、実際にプレイしてみると印象は大きく異なる。

多くの人が共感できる恋や夢を描いた『Florence』、そして重厚なストーリーをプレイヤーに追体験させる重厚な『ダレカレ』。両作品の違いを紹介するので、自分に合う物語体験を選ぶ参考にしてほしい。

映像や音楽を楽しみ、前向きな気持ちになりたい人は『Florence』がおすすめ

『Florence』恋に落ちる

© 2020 Studio Mountains PTY LTD. Published by Annapurna Interactive under exclusive license. All rights reserved.

『Florence』は、音楽と映像を主体に進行し、文字による説明やセリフはほとんど登場しない。そのため活字が苦手な人でもスムーズに物語に入り込めるのが嬉しい。

文字がないからこそプレイヤーが登場人物の会話や心情を想像して楽しむことができる。この"余白の楽しさ"こそが作品の大きな魅力だといえる。

描かれているテーマも、"恋"と"夢"と普遍的なので、誰もが共感しやすい恋をしたときの高揚感や両想いの喜び、すれ違いの切なさ。さらに、社会生活のなかで単調な日々に退屈を覚えたり、子どものころの夢にフタをしてしまう苦しみも丁寧に表現されている。

いままさに恋をしている人、夢に向かって一歩踏み出したいと考えている人、日常に小さな変化を求めている人にとって、『Florence』は心に響く体験となるだろう。

『Florence』のギミック

© 2020 Studio Mountains PTY LTD. Published by Annapurna Interactive under exclusive license. All rights reserved.

さらに操作性のシンプルさも大きな魅力だ。吹き出しをパズルのように組み合わせたり、SNSの投稿に「いいね」をしたり、場面に応じてアイテムを選んだりと、直感的で分かりやすい仕掛けばかり。ふだんゲームに馴染みのない人でも迷うことなく楽しめる。

『Florence』は、手軽さのなかで美しい物語を体験でき、プレイ後には前向きな気持ちをそっと残してくれる作品である。

重量感溢れるストーリーに向き合いたい人は『ダレカレ』がおすすめ

『ダレカレ』のテキスト

©TearyHand Studio LLC/Kodansha.Ltd.

『ダレカレ』は、プレイヤーが少女の心情を文字で読み取りながら進めていく作品だ

感情や状況を直接的にテキストで描くため、ほとんど文字を使わない『Florence』とは大きく異なる。最初は「何が起きているのかわからない」状態から始まり、文章を読み進めるうちに、少女の混乱や不安を自分自身が追体験していく。

章ごとに場面が大きく切り替わるため、「共感して感情移入する」というよりは、小説を読むように物語に没入していけるのが特徴だ

『ダレカレ』プレイ画面
©TearyHand Studio LLC/Kodansha.Ltd.

一体どうプレイしたら良いかわからない、不穏なギミックも多数。プレイヤーは試行錯誤しながら進めていく。

また『Florence』が直感的に遊べるカジュアルさを持っていたのに対し、『ダレカレ』は操作がやや複雑だ。仕組みがわかりにくいギミックなど、思うように進めづらい場面もある。

食事や家事をするシーンなど、一見簡単そうな操作も意外と難しく、プレイヤーにどうすれば良いのかを考えさせる作りになっている。

このような小説的体験、この後に記載する本作のテーマ、ゲーム性の複雑性などを踏まえて、『ダレカレ』はより重量感がありプレイヤーの心に問いを投げかけるような作品であるといえるだろう。


注意
以下、『ダレカレ』に関する一部ネタバレを含みます。物語の核心に触れていますが、詳細な部分には極力触れていません。

じつはゲームを進めると、物語の中心にいる少女が、認知症を抱えた老女であることが明らかになるつまり、章ごとに登場した謎の男や父親の姿は、すべて彼女の夫だった。彼女は記憶や認識を保てず、過去の思い出と現在の出来事が混ざり合っていたのだ。

恋に落ちた日々、父と過ごした時間、夫との生活はすべて断片的に描かれていた彼女の記憶であり、謎の薬の存在や失敗してしまう日常の動作は認知機能の歪みでして思うようにいかない現実であったのだ。

『ダレカレ』第3章

©TearyHand Studio LLC/Kodansha.Ltd.

プレイ中に感じる操作の難しさも、ただのゲーム性ではない。食事をする、手を洗う、料理を作る──そんな日常的な動作は、認知症を患うことで極めて困難になる。その感覚を疑似的に体験させるための仕掛けだったのだプレイヤーは自然と「認知症の人にとって世界はこう映るのか」と実感することになる。

この先の詳細はぜひプレイしてほしいが、本作は認知症について考え学ぶだけでなく、夫婦や家族との関わり、愛情や葛藤にも触れることができる。

最後までプレイすると、彼女の人生や夫との関係に触れ、自分自身の家族や人生についても考えずにはいられない。物語を進めながら、胸に熱く込み上げるものがあり、筆者は思わず涙が止まらなかった。

物語を追体験する--映画や小説と異なる"インタラクティブノベル"という選択肢

『Florence』チャプター

© 2020 Studio Mountains PTY LTD. Published by Annapurna Interactive under exclusive license. All rights reserved.

2作品を遊んでみて、これからの時代におけるインタラクティブノベルの可能性を強く感じた。いま、物語を体験できるコンテンツといえば、映画(ドラマなどの映像作品を含む)や小説などが主流だろう。

映画はおよそ2時間で完結する、没入的な体験だ。近年では映画を2倍速で楽しむ人も増え、また物語をダイジェスト化した映像コンテンツが人気を集めるなど、効率よく物語を"消費する"スタイルが一般的になりつつある。

確かに手軽ではあるが、観る側が主体的に関われる余地は少なく、体験はあくまで受け身にとどまってしまう。

一方、小説は文字を介して物語世界に深く没入できる。しかしその分、集中力と読書時間が求められる。現代の忙しいライフスタイルにおいては、読みたいけれど腰が重いと感じる人も少なくない。

カジュアルゲームの操作性

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そんな時代背景のなかで、『Florence』や『ダレカレ』のようなカジュアルな物語ゲームは新しい選択肢になり得る数十分から1時間程度で完結し、映画より短く、小説ほど重くない。価格帯も1000円以内で手に取りやすく、さらに操作を通して物語に主体的に関われる点が大きな魅力

タップやスワイプといったシンプルな操作を通じてキャラクターの感情を追体験し、日常のささやかな動作を"自分の手"でなぞる。こうして物語は受け身でなく、自分事のように立ち上がってくる。まさに映画と小説の"間(あいだ)"に位置する、新しい物語の楽しみかただといえる。

『ダレカレ』認知機能の歪み

©TearyHand Studio LLC/Kodansha.Ltd.

さらに、『ダレカレ』が認知機能の歪みを体感させたように、この形式は"ふだんは触れられない世界"を追体験させる力も持っている異なる文化背景を理解するきっかけや、社会的なテーマを身近に考える入口としても、インタラクティブノベルは大きな可能性を秘めているのではないだろうか。

あなたも物語を体験してみてはいかが?

物語を観る・読むだけでなく、"体験する"時代へ。『Florence』や『ダレカレ』はその先駆けとして、ゲームが持つ新たな可能性を強く示している。ふだんはあまりゲームがプレイしない方もぜひ、映画館や本棚に向かうような感覚で、次の休日に手に取ってみてはいかがだろうか。