2015年にインディーゲームとして登場したRPG『UNDERTALE(アンダーテール)』は、「誰も死ななくていいやさしいRPG」というキャッチコピーのとおり、敵を倒さずとも物語を進められる革新的なシステムと、プレイヤーの行動によって分岐する展開で、多くのファンを魅了してきました。
『UNDERTALE』にはさまざまな個性的なキャラクターが登場しますが、なかでもひときわ異彩を放つのが"サンズ"という小柄なガイコツのキャラクターです。青いパーカー姿に、気だるげな態度とダジャレが持ち味の脱力系キャラ……と思いきや、その正体はまったくの別物。プレイヤーの"選択と行動"を静かに見つめる"目撃者"として、物語の核心に深く関わってくる存在です。
SNS上では彼に関する二次創作がいまなお盛んで、関連グッズも多数展開されるなど、インディーゲームの枠を超えたカルト的な人気を誇るキャラクターです。また、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』ではMii射撃タイプ向けのコスチュームとして登場し、『ポップンミュージック』と『UNDERTALE』がコラボレーションした楽曲のキャラクターに選ばれるなど、その人気は他のゲームタイトルにも波及しています。
本記事では、そんなサンズの魅力が凝縮された登場シーンのなかから、とくに印象に残った"好きすぎる5つのシーン"を筆者の独断と偏見で紹介します!
スノーフルでの初遭遇シーン


ゲーム序盤、チュートリアル的な役割を持つ"いせき"のステージを抜け、次にたどり着くのが雪景色の広がる"スノーフル"。ここで、主人公は初めてサンズと出会います。
保護者的存在だったトリエルと別れ、初めてひとりで踏み出す場所。緊張感のあるBGMのなか、背後から正体不明のシルエットがゆっくりと近づいてくる……そんなホラー映画のような演出で始まるこのシーンは、プレイヤーに不安と期待を同時に抱かせます。
しかし、サンズが放ったのは"ブーブークッション付きの握手"です。その間抜けな効果音とともに、彼のシルエットは一気に緊張感を吹き飛ばす存在へと変わります。
"ニンゲンハンター"である(サンズの)弟のパピルスから主人公をかくまうため、サンズは近くにあった主人公と同じ形の"ちょうどいいかたちのランプ"に隠れるよう勧めてくれます。ユルくてどこかふざけた存在ながら、主人公をさりげなく助けてくれる──この瞬間、サンズを"ちょっと頼りになる味方"として認識したプレイヤーもきっと少なくないはずです。
ホットランドのリゾートホテルでの食事シーン


ゲーム中盤から終盤にかけて訪れるリゾートホテルでの再会シーン。ここでサンズは、プレイヤーに衝撃の事実を明かします。
じつは、主人公が旅立つまえ──サンズが顔も見えない扉越しに会話を交わしていた"誰か"、それがトリエルであり、彼女から「ニンゲンを見守ってほしい」と頼まれていたのです。つまり、道中で何度も遭遇してきたサンズは、ただの気まぐれな通行人ではなく、ずっと主人公を陰から守り続けていた存在でした。
おちゃらけた態度の裏で、命を守るという重大な使命を黙って果たしてきた──そのギャップが強く印象に残るシーンです。なかでもプレイヤーの心を揺さぶるのが、サンズのこの問いかけ。
「(トリエルとの約束)あれが なかったら…アンタ いまごろ どうなってたとおもう?」
そう言って少し間(ま)を置き、背を向けたまま語る彼の次のひと言が、空気を一変させます。
「おまえは いまごろ とっくに しんでいた。」
このセリフの瞬間、サンズの顔グラフィックは初めて瞳孔のない黒い目へと変化し、使用されるフォントもサンズ専用のフォントから共通のシステマチックなフォントに戻ります。これまでコミカルなムードメーカーとして描かれてきた彼が、一瞬だけその本質を垣間見せる……サンズというキャラクターの奥深さを強烈に印象づける名場面です。
"さいごのかいろう"での遭遇シーン
地底世界の首都・ニューホームの先にある最終ステージ"さいごのかいろう"で、プレイヤーはふたたびサンズと対面します。ここは、物語の節目にあたる重要な分岐点です。
この場面で初めて、サンズは主人公に"EXP(Execution Points)"と、"LOVE(Level of Violence)"の本当の意味を話します。モンスターを倒すことで増えていた数値は、じつは"暴力"と"殺意"の象徴だったのです。
ラスボス的な存在であるアズゴアとの決戦をまえに、サンズはプレイヤーのこれまでの行動をもとに"審判"を下します。倒してきたモンスターの数に応じて、その後のサンズのメッセージが変化し(下記)、"なんとなく"進めてきたプレイヤーほど、その重さに衝撃を受ける場面です。
- モンスターを1匹も倒さずに来れたら、主人公の"ケツイ(決意)"を認め、「みんな アンタを おうえんしてる。」と温かい言葉をかけてくれます。
- 逆にたくさんのモンスターを倒した場合は「クズみたいな ヤツだな。」と罵られます。
このときの演出面も印象的で、黄金の光が差し込む荘厳な空間に、サンズと主人公の姿はシルエットで描かれ、会話の冒頭には教会の鐘のようなベルが鳴り響きます。ふだんはユーモラスなサンズが、ここでは物語の締めくくりを担う"語り部"として、強烈な存在感を放ちます。このシーンは背景とともにサンズの台詞が強く心に残った人も多いことでしょう。
スノーフルでパピルスが仕掛けた罠のシーン(Gルート)
Gルートにおいて、すべてのモンスターを無差別に倒しながら進む主人公に対し、サンズが初めて本気の"警告"を発する場面があります。それは、なんと彼自身の弟であるパピルスを倒そうとする直前のタイミング--「おまえは そのうち サイアクな めに あわされるぞ。」と、彼は低く、そして静かに言い放ちます。
この時もサンズのグラフィックはいつもの笑顔を捨て、瞳孔のない真っ黒な目に変化します。BGMもぴたりと止まり、空気が一変……。コミカルな言動が目立つ彼が放つ、明確な"殺意"を含んだ雰囲気──この落差が筆者の胸に強く刺さりました。
ゲーム開始時の"いせき"ステージから、モンスターを次々と倒して進めてきたプレイヤーにとって、このシーンはまさに"まだ間に合う"最初の分岐点とも言える重要な場面です。
実際、ここから先の選択次第ではモンスターを倒さずに進む"別のルート"へと軌道修正することもまだ可能です。つまりこの警告は、物語とゲームシステムの両面からの語りかけでもあるのです。
優しげな笑顔とおどけた態度に隠された、彼の真の顔……それを垣間見た瞬間、プレイヤーは"サンズ"という存在の奥深さに初めて気付かされることになります。
"さいごのかいろう"での遭遇シーン(Gルート)
Gルートの"さいごのかいろう"で登場するサンズは、3位で取り上げた他のルートの"さいごのかいろう"に登場する彼とは、明確に異なる存在として描かれます。
最大の違いは――サンズとの"バトルがあるかどうか"。
Gルート以外のルートでは、サンズはプレイヤーの行動を振り返り、"評価"を与えるだけでその場を立ち去ります。しかし、Gルートでは状況が一変します。すべてのモンスターを無差別に殺害し続けてきたプレイヤーに対し、サンズは"評価"だけで終わらせず、自らがその“執行者”として立ちはだかるのです。
この差こそが、Gルートにおける彼の重みと、物語上の意味をより際立たせる要素となっています。当シーンでは、これまでの気の抜けたジョークや軽口は一切なくなり、空気は一変。静けさと張りつめた緊張感が辺りを包み込みます。
そして――サンズとの最初で最後のバトルが幕を開けるのです。
しかし彼のステータスは"攻撃力1"、"防御力1"と本作に登場するすべてのキャラと比較して最弱となっています。──にもかかわらず、彼の攻撃は苛烈を極め、こちらの攻撃は一切当たらないという、まさに規格外のボスといえます。戦闘開始直後に吐き捨てられる「じごくで もえて しまえば いい」のひと言とともに、プレイヤーは容赦ない猛攻を受けることになります。多くの人が、初見ではなす術なく敗れることでしょう。
この壮絶な戦闘の序盤、ようやくサンズの1発目のラッシュが終えたそのとき、プレイヤーたちのなかで名曲ともいわれている『MEGALOVANIA』が流れ出します。この楽曲はゲーム内で唯一、サンズ戦だけに使われる特別な曲。サンズというキャラクターの集大成ともいえる演出として、プレイヤーの記憶に強烈な印象を残します。
何度もリトライしてようやくサンズを撃破したとき、プレイヤーはふと立ち止まり、自らの選択を省みることになるでしょう。彼の死に際の演出、そしてこれまで築いてきた距離感のある関係性が、決して"ただの敵"だったとは思わせない重さを残すのです。
Gルートにおけるサンズ戦は、単なるボス戦ではありません。ゲーマーである以上、"未だ見ぬシナリオ"を求めて先へ進もうとするのは、ごく自然な行動です。ですが、その旅路の果てに「サンズを倒す」という選択が待っていること──そしてそれを自らの手で実行しなければならないことは、まさにゲームという枠組みを越えた、唯一無二の体験と言えるでしょう。
物語の序盤から、つかず離れずの距離感で主人公を見守ってきたサンズ。どこか飄々としながらも、つねに目を離さずにいた彼が、最後に"ボス"として立ちはだかり、プレイヤーの覚悟を問う。この瞬間は、『UNDERTALE』という作品の哲学とテーマが凝縮された、象徴的な名場面にほかなりません。
最後に……
サンズは、一見するとただの"気の抜けたガイコツ"です。冗談ばかり言って、戦う気なんてまるでなさそうな、脱力系の立ち振る舞いが特徴的です。
でも物語が進むにつれて、彼がただのおちゃらけキャラではないと、誰もが気づかされるはずです。
彼は、プレイヤーの選択や行動を"見ている"存在。そしてその視線は、つねに鋭くて逃れられない。『UNDERTALE』というゲームが問いかける"命を奪うこと"、"誰かを見逃すこと"、"選択すること"の意味を、誰よりも深く知っています。それがサンズなのです。
だからこそ、彼のセリフや行動には、どの場面でもプレイヤーの心を揺さぶる力があります。出会ったときの軽やかさも、ホテルでの語りかけも、最終決戦での沈黙も、すべてが"サンズというひとりのキャラクターのなかに矛盾なく息づいている。そんな(キャラクターの)"完成度の高さ"が、いまも人気の理由なのかもしれません。
気がつけば、プレイヤーのすぐそばにいつもいる──そんなサンズは、『UNDERTALE』という物語の"語り部"として、今日も私たちの記憶のなかに生き続けているのです。