長所
- 王道ながらも強烈なフックが効いたファンタジー世界
- 中盤以降に怒涛の盛り上がりを見せるストーリー展開
- 強敵が本当に強いアトラスらしいバトルバランス
- バトルのアクセントであり稼ぎの手間を解消する"ファスト&スクワッド"システム
短所
- ノーマル難度でも敵の殺意が高め
- 怪物のデザインがかなり強烈なので人によっては苦手
『メタファー:リファンタジオ』(以下、『メタファー』)は、『ペルソナ3』以降の『ペルソナ』シリーズを手掛けた制作陣が贈るファンタジー世界を舞台にしたRPG。そして、アトラスブランドの35周年という節目に発売を迎えた作品でもある。
『真・女神転生』でも『ペルソナ』でもない新たなアトラス製RPGであり、しかもアトラスが得意としてきた現代劇ではなくファンタジーもの。そういった意味合いも含めて、本作は完全新規のタイトルと言える。
先に結論を述べれば、本作はファンタジーの物語体験としても、RPGというゲームジャンルとしても、そしてアトラスの作品としても傑作だ。とりわけ、本作はストーリーが抜群に面白い。
筆者はどちらかと言うとストーリーよりはゲーム性や触り心地などを重視する派なのだが、本作は(ゲームとして面白いのはもちろん)とにかくストーリーの先が気になり仕方がなくなってしまった。
本レビューでは物語を詳細に語ることは避けつつ、本作の世界やストーリーが持つ強烈な面白さ、コマンドバトルとアクションのユニークな融合を果たした"ファスト&スクワッド"システム、そして筆者がアトラス作品のファンとして楽しめた要素について触れていきたい。
と、序文を書いたうえでこう言うのもアレだが、まだ本作をプレイしていないのであれば、レビューに目を通さずそのままゲームをプレイしてほしい。実際、筆者も本作をプレイして「事前にあの情報を知っていなかったら、このイベントでもっと驚けたはずが……!」と歯がゆい思いをする場面もあったので、できれば一切の情報を仕入れずに遊んでほしい、というのが正直なところだ。
ファンタジーやRPG、アトラス作品を好きな人が楽しめるゲームになっているのはもちろん、逆に本作をきっかけにしてファンタジーやRPG、そしてアトラスが作り出すゲームのファンになれるであろう作品なので、とにかくまずはプレイしてほしい。
それでもどんな魅力があるのか知っておきたい人や、すでに本作をプレイした(している)人はぜひ筆者の「ここ好き」語りに付き合ってほしい。
王道のなかにある異物感、"ニンゲン"と見え隠れする現実世界の気配
2016年に"PROJECT Re FANTASY"として発表され、のちに『メタファー:リファンタジオ』と名を改めた本作は、その名のとおりファンタジー世界を舞台としている。角や翼、長い耳などを持った多彩な種族が暮らし、街の外には怪物があふれ、主人公たちは剣と魔法でそれらと戦う、これ以上ないほどのザ・ファンタジーだ。
これだけであれば、よく言えば王道だが、悪く言ってしまえばありきたりともなりかねない。本作の世界をどこにでもあるものにしない要素のひとつが、"ニンゲン"の存在だ。
作中には角を持つ"クレマール族"、額に第3の目を持つ"ムツタリ族"、コウモリのような翼と耳を持つ"ユージフ族"など、多彩な8つの種族が登場するが、そのなかに人間という種族は存在しない。本作における"ニンゲン"は、正体不明の怪物を指す言葉なのだ。
人間のようなパーツこそあれ、人からはかけ離れた怪物がなぜ"ニンゲン"と呼ばれているのか、この謎は強烈に興味を引き立ててくれる。
"ニンゲン"はこの世界に活きる人々にとっての脅威となる存在だが、主人公たちは英雄像の力"アーキタイプ"に目覚め、この怪物に対抗し得る能力を獲得する。
本作の物語は、舞台となる"ユークロニア連合王国"の次期国王を決める王位継承レースが主軸となるのだが、こちらもファンタジーらしく、しかしまったくファンタジーらしくない内容となっている。何がらしくないかと言えば、次期国王は国民ひとりひとりの投票で、つまりは選挙によって決まるのだ。
選挙と言っても、現実のように候補者の名前を紙に書いて投票する形式ではない。強大な魔法によって全国民が誰を支持しているかの判定が行われ、期日となる"英雄の日"までにもっとも多くの信託を集めた者が王となる。やっていることは選挙なのだが、その仕組みはじつにファンタジーだ。
さまざまな主張を掲げる候補者たち、その思想に共感し、あるいは武力に恐怖し、あるいは考えることが面倒になって投げやりに、誰かを支持する国民たち。本作の発売が現実世界、日本やアメリカにおける大きな選挙とタイミングが近かったというのもあり、現実を連想させる部分も少なくはない。
作中における重要アイテムのひとつとなる“幻想小説”もそのひとつだ。主人公が持つこの小説には“幻想世界”の様子や仕組みが描かれているのだが、そこにはまるで我々が住む現実のような世界のことが記されている。
そういった現実の気配がちらつく一方で、"ニンゲン"のような存在が人々の脅威になっているなど、現実とはかけ離れた問題が大きく扱われていることもあり、本作で描かれるのはあくまでファンタジー。
特定の思想を押し付けるような作品でもなければ、プレイしていてそのように感じることもない。しかし、ある意味で幻想世界を通して現実のいち側面を描いているとも言える本作は、理想の世界とは何か、そう考えるきっかけになってくれる作品だ。
多彩な種族が住まう剣と魔法の世界。そのなかに散りばめられたいくつもの異物的要素が謎を呼び、本作の世界をより魅力的に見せ、その真相に迫りたいという気持ちを強くしてくれる。
王道らしく心地よい幻想を提供しつつも、この世界には何かあると思わせる設定の散りばめかたは、舞台設定だけを見ても秀逸だ。
時間をかけて物語を味わうゲームだからこその揺らぎと興奮
マンガや小説、映画などと比べた際に、ゲームの大きな特徴として挙げられるのは、物語の体験にかける時間の長さ。とくにRPGは数十時間、作品によっては100時間以上かけてクリアーすることも珍しくはない。本作では、そんな付き合いの長いゲームだからこそ、と思える仕掛けが用意されている。
主人公はとある呪いを解くという特命を帯びているのだが、紆余曲折あって王位継承レースに名乗りを上げることとなる。そして支持者を増やすため、あるいは呪いの真相に近づくために大陸中を旅し、各地で人助けや怪物対峙に奔走する。
ゲーム前半では初めて見る幻想の世界に胸を躍らせつつ、各クエストやメインストーリー、各キャラクターとの交流を通して本作の世界に対する理解を深めていくことになる。
その長い旅のなかで、自分(主人公)たちは何をすべきか、誰を討ち誰を救うべきなのか、それがくり返し語られ、プレイヤーも「正しいことをしている」という認識で旅を進めることになる。
が、数十時間かけてその正しさが大前提となったころで物語はひとつのクライマックスを迎え、それまでの前提を覆すような事実が発覚。「どういうことだ!?」と慌てるキャラクターたちとともに、プレイヤー自身もこれまでにやってきたことは本当に正しかったのか、そもそもの前提からして間違っていたのではないか、という不安に駆られることとなる。
ネタバレを避けるためにふわっとした書きかたになってしまい恐縮だが、数十時間かけて積み上げてきた前提が次々と揺らぐ衝撃の大きさ、ついにクライマックスか、と盛り上がった直後にさらなる衝撃を畳み掛けてくる怒涛の展開は、30年近い自分のゲーム人生のなかでもトップクラスの興奮をもたらしてくれた。
余談だが、今回はプレイを始めた段階である程度レビューを書く想定でいたため、ふだんよりもスクリーンショットをこまめに撮っていた。
ゲームを最後までプレイしてから写真を振り返ると、旅のアルバムをめくるようなじんとくる感覚が味わえるので、これからプレイする人はぜひクスっときた場面や強敵との戦い、お気に入りのキャラクターとの会話シーンなど、印象に残った場面をスクリーンショットに残しておくのがオススメだ。
RPGのバトルに新たな変化をもたらす"ファスト&スクワッド"
本作のバトルは、『真・女神転生』シリーズや『ペルソナ』シリーズでおなじみの"プレスターンバトル"を採用している。これは以前執筆した『真・女神転生V Vengeance』のレビュー記事でも触れたが、簡単に言えば敵味方ともに相手の弱点を突くことで行動回数が増加するというシステムだ。
主人公たちは"アーキタイプ"と呼ばれる能力を駆使して戦い、アーキタイプを付け替えれば使用可能なスキルも変化するほか、特定のアーキタイプを組み合わせれば、味方同士の合体技とも言える強力な必殺技の"ジンテーゼ"を使うこともできる。
それらの新規要素もありつつ、アトラス製RPGを遊んできた人にはおなじみのバトルであり、先制攻撃を仕掛ければ敵に1ターンで撃破できるような相手でも、敵に先制攻撃を仕掛けられると逆に1ターンで全滅しかける、というバランスも相変わらずだ。
このプレスターンバトルも非常に面白いのだが、今回はそこではなく、本作で初めて登場したバトルシステムである"ファスト&スクワッド"について語りたい。
その名のとおり本作のバトルは"ファスト"(アクション)と"スクワッド"(コマンドバトル)に分かれている。フィールド上を闊歩する敵とはまずアクションで対峙することになり、敵のゲージを削り切れば敵全体にダメージを与える先制攻撃を仕掛けられ、逆に敵の攻撃を受けると相手の先制攻撃でコマンドバトルがスタートしてしまう。
上手く立ち回れば優位に立てるが、攻撃を避け損なえば一気にピンチとなるため、アクションゲーム的な緊張感もなかなかのものだ。
また、自分たちよりも一定以上レベルが低い敵は格下扱いとなり、格下の敵はフィールド上のアクションだけで撃破することが可能になる。ファストの名のとおり素早く敵を蹴散らすことができ、経験値やアイテムドロップといった報酬も手軽に獲得可能だ。
コマンドバトル型のRPGでは、道中のザコ戦でいちいちコマンドを選ぶのが面倒だと感じる人も多い(個人的にはその作業感も地味に好きなのだが)。格下の相手はアクションだけで撃破できる"ファスト&スクワッド"のシステムは、そういった手間を省き、ダンジョン探索における中だるみを上手く解消している。
また、相手が格上だと先制攻撃を取るために必要な攻撃回数も多いが、自分たちのレベルが上がれば一撃で先制攻撃を取れるようになり、さらに成長すればコマンドバトルに突入することなく撃破できる。ダメージ量などの数値とは違ったかたちで自分が強くなったことを実感できる、という意味でも優れたシステムだ。
アトラスファンであればあるほど楽しめるアトラス節
完全新規タイトルの本作だが、アトラスらしさという点では新しくもなじみ深い部分の多い作品になっている。
限られた日数のなかで、力をもたらす支援者(フォロワー)と交流したり、自分を磨いたり、あるいはダンジョンに潜ってレベルを上げたり、といった『ペルソナ3』以降でおなじみのカレンダーシステムは今作にも登場する。
また、絵画のような描き込みで発売前から話題を呼んだメニュー画面などのUIを筆頭に、いまやアトラス製RPGの大きな特徴と言えるこだわり尽くされたビジュアルは、本作でもこれでもかというほど味わえる。
アトラスブランド35周年という節目に発売を迎えたこともあってか、本作にはこれまでのアトラス作品を思わせる要素が多数登場している。
『ペルソナ5』に登場する新島真の愛称(?)である"世紀末覇者先輩"を思わせる装備品名が登場するなど、テキスト面でさりげなく過去作をオマージュしているものも多く、知らなくても問題ないが、知っている人はニヤリとできる場面も多い。
ゲームタイトルがそのままアーキタイプ名になっている"デビルサマナー"は、ジャックフロストなどおなじみの悪魔を召喚して戦うことができ、とあるダンジョンは『世界樹の迷宮』プレイヤーがニヤリとするどころではない内容になっているなど、ダイナミックなファンサービスもいくつか見られるため、アトラス作品に触れてきた人ほどより楽しめるだろう。
そういったオマージュが多く仕込まれているため、プレイヤーによっては「もしかすると勘違いかもしれないが、これはあの作品をもじっているのだろうか……?」と感じられる部分も出てくる。
そこで触れておきたいのが、『ステラデウス』という作品だ。こちらはプレイステーション2用に発売されたシミュレーションRPGで、開発は有限会社パイングロウ、販売をアトラスが行った作品なのでアトラス作品かと言えば微妙なラインではある。
しかし『メタファー』のキャラクターデザインを務めている副島成記氏が、初めてメインキャラクターデザインを手掛けたのも『ステラデウス』なのだ。その意味で、『メタファー』とつながりがないわけではない、と言えるだろう。
当時その硬質的なキャラクターたちのイラストに惹かれてプレイし、その後リリースされたガラケー用アプリ版も楽しんだ身としては、アトラスでファンタジーRPGと言えば『ステラデウス』というイメージがあった。
新たなファンタジーRPGとして打ち出された『メタファー』、そこに登場するアーキタイプのデザインの無機質さや硬質感に『ステラデウス』の香りを感じられたのは、個人的にはなかなかアツいのである。
もちろん、これらのオマージュ要素(あるいは楽しい勘違い)に気付かなくても、『メタファー』は1本のゲームとして問題なく楽しめる。実際、自分でも気づいていないオマージュはまだまだあるはずだ。
初めてのアトラス作品、純粋にひとつのファンタジーRPGとしても面白いのは間違いないが、アトラス作品を遊んできた人へのご褒美的な要素が詰め込まれた作品になっているという意味でも、本作はたまらない作品に仕上がっている。
『メタファー』が今後シリーズ化し、この世界で新たな物語を描いてほしいとも思うし、再び新たな世界を作り上げるのも見てみたくなる。幻想を通して現実を切り抜き、理想の世界に想いを巡らせる本作は、ゲームファンとしての夢も膨らませてくれる1本だ。