無二の個性を持つ『Balatro』、ポーカー×デッキ構築型ローグライクの要素を活かす“バランス”が素晴らしい

ポーカーと組み合わせることで、デッキ構築ローグライクをカジュアルに遊ばせるタイトル

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ポーカーとデッキ構築型ローグライクを組み合わせたタイトル。運要素は強いながらも、ポーカーを軸にしたゲーム性はかなり独特であり、同ジャンルのほかタイトルにない魅力が詰まった一作に。

長所

  • ポーカーの要素を組み合わせたことによるゲームの独自性
  • 多彩な種類のジョーカーなど、個性的なグラフィック
  • デッキ構築ローグライクながらもカジュアルな遊び心地
  • カードのシナジーを考え、大きな点数を盛る快感

短所

  • 運要素が強く、ゲームバランスが大味
  • 和訳が少し微妙で、ゲーム全体のオシャレな雰囲気が削がれる

筆者はポーカーが好きだ。

とはいっても、そんなにシビアなやつじゃない。なんてことないカジュアルなやつである。テキサスホールデムとか、レイズだコールだフォールドだ、なんてのはそこまで知らない。でっかい役作ったやつがいちばんえらい、なんて感じのシンプルなルールのやつ。

筆者が『Balatro』をプレイして感じたのは、そんな"カジュアルなポーカー"の雰囲気だった。ポーカーの"風味"だけをうまく抽出して、デッキ構築型ローグライクの要素を組み合わせることで独特の遊び心地を提供してくれているような、そんな一作となっている。

ジョーカーによるインチキポーカーを遂行せよ、デッキの“外側”構築型ローグライク

本作のジャンルはデッキ構築型ローグライクだ。ゲーム中、ランダムに提示されるカードを集め、その場その場の展開にあわせてデッキを構築しながらステージを踏破していく、デジタルカードゲームとローグライクが組み合わさった一大ジャンルだ。

カードゲームのデッキ構築という"理論"がガッチガチに詰まったものに、ローグライクのランダム性という"運"を絡めたゲームシステムは非常に中毒性が高く、多くのユーザーが「あともう1回!」の沼に引きずり込まれて帰って来られない、そんな恐ろしさを秘めたジャンルである。

『Slay the Spire』のゲーム画面。
©2019 MegaCrit, LLC.

同ジャンルの金字塔でもある『Slay the Spire』。カードデッキを作成し、数々の試練が待ち受ける塔へと挑む。

しかし、『Balatra』はそんなデッキ構築型ローグライクのなかではちょっと異端なゲームとなっている。まず、単純にカードをプレイ(場に出す)だけでは意味がなく、基本は役を作ることが目的となっている。

これは大元がポーカーなので当然っちゃ当然だが、つまるところ"個々のカード自体のパワー"はそこまで重視されていないということ。詳しい人なら「カードにパワーがないならデッキのなにを構築するんだよ」と気になるところだろうが、本作の変なところはこれだけではない。

『Balatro』のゲーム画面。ワンペアを揃え、180の得点を獲得している。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

役ごとに得点が設定されており、ステージごとに決められたボーダーを超える得点を稼ぐことで、晴れてステージクリアとなる。

『Balatro』のゲーム画面。ボスの効果でクラブのカードが無効化されている。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

2ステージクリアすると、こちらに不利な条件が設定されたボスステージに挑戦できる。

だいたいの似たような作品では初期のデッキ枚数が10枚前後であるところ、本作はなんと52枚(ジョーカーを除いた13×4のトランプ)。これでは「必要なカードだけを集めて最強のデッキにするぜ!」みたいな試みはほぼ不可能だ。そう、本作はデッキ構築型ローグライクでありながら、"デッキを構築すること"はほぼないのである。

『Balatro』のゲーム画面。特定のカードを強化するかどうかを聞かれている。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

一応トランプ自体を強化したり、特定のカードを増やしたりはできるけど、メインとなるのはそこじゃない。

『Balatro』のゲーム画面。デッキを選択する場面で、フェイスカードのないアバンダンドデッキを選択しようとしている。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

デッキの種類によってはフェイス(いわゆるキング、クイーンなどの絵札)が入っていないデッキなどもある。それでも40枚あるので、初期デッキとしてはあまりにもファッティ(枚数が多すぎ)だ。

本作における構築のキモは、ずばり"ジョーカー"にある。『Balatro』におけるジョーカーは、デッキのなかに入れるワイルドカード……ではなく、常時発動でなにかしらの恩恵をプレイヤーにもたらすバフ(強化要素)みたいなものだ。たとえば特定のスート(クラブ、スペードなどのマーク)を強化したり、最終的な得点を倍増させたりするような効果を持っている。

『Balatro』のゲーム画面。画面上部にジョーカーが5枚並んでいる。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

上に並んでいる道化師とかバナナとか標識みたいなカードたちがジョーカー。基本は5枚まで持つことができる。

『Balatro』のゲーム画面。ショップにジョーカーなどの各種カードが並んでいる。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

ステージごとのあいだに挟まるショップでジョーカーを購入することができる。ここに"特定の役"や"カード"を強化するアイテムが並ぶことも。

なかには"スペード=クラブ、ハート=ダイヤとして扱う"や、"ストレートやフラッシュは4枚でも成立する"、果ては"ストレートをひとつ飛ばしで作ってもよい(2、3、5、7、9でも成立する)"なんてとんでもないジョーカーまで。

また、ストレートやフラッシュの役自体を強化するような効果のモノもあるので、うまくいけば「5、7、8、10の4枚でストレート成立! さらにストレートを強化するジョーカーもあるから得点もモリモリ!」みたいなことすらできてしまう。

早い話がインチキポーカー。『Balatro』は"ジョーカーによるバフ"を構築して、お手軽に高得点が叩き出せる役を生み出す"デッキの外側を構築"するタイプのゲーム性となっているのだ。

『Balatro』のゲーム画面。ジョーカーの効果でストレートフラッシュの役を作って大量の得点を稼いでいる。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

ジョーカーの力で"ダイヤ=ハート"扱いにしてインチキストレートフラッシュ。さらにハートとダイヤをそれぞれ強化するジョーカーもあるので得点も倍増。

『Balatro』のゲーム画面。弱い役(ツーペア)だがジョーカーの効果で大量の得点を獲得している。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

ツーペアを強化することに特化したジョーカーで構成を組んでツーペア無双、なんてことも。フルハウスやストレートフラッシュを出すよりもずっと強い。

このゲームの上手なところは、デッキの外に構築する要素を持ってくることで、"カード単体ではなく役が重要"、"膨大なカードから引いて組み合わせを作る"などのポーカーらしさがしっかりと残っている部分だ。これにより他の同ジャンルタイトルとはひと味違ったおもしろさを醸し出している。いろいろなデッキ構築型ローグライクを遊んだことがある人ほど、新鮮にこのゲームを味わえるはずだ。

運の要素は気持ち多め、ちょっと大味なゲームバランスが目立つ

ポーカーとデッキ構築型ローグライク。『Balatro』はこの2要素のバランスが絶妙であり、それにより独特の遊び心地が味わえる……なんてことを説明してきたわけだが、しかしそのバランス感覚は"ゲームバランス"という面で見るとちょっと微妙なところがある。

第一に、ほかの同ジャンルタイトルに比べてかなり運の要素が大きい。おもに初期デッキの枚数が多すぎるがゆえなのだが……理想的なデッキを構築することがほぼ不可能なので、最終的には"欲しいカードが引けるかどうか"の勝負になりやすく、そうなった場合は勝率が著しく低くなる。30枚近くあるカードから特定の2枚を土壇場で引かなきゃならない、なんて想像したくもない場面がそれなりにある。

だからこそ、平均的に高得点を得やすいようにジョーカーを組んでいくわけだが……ショップに並ぶカードの数は1回につき基本は2枚。ジョーカー以外が並ぶこともあるので、"理想的な手"どころかそのときの進行度において"平均的な打点に辿り着かない"なんてこともザラにある。もちろんこれは筆者のプレイスキルも大いに関係しているとは思いつつ、それでも運の要素が大きいことは明らかであるように思う。

『Balatro』のゲーム画面。クリアに必要な得点が1000万点以上のステージ。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

ボスステージを超えると、つぎからは各ステージを突破するのに必要な得点が上がる。このインフレ具合が凄まじく、この流れに乗り遅れると一瞬でゲームオーバーに。

『Balatro』のゲーム画面。ゲームオーバーとなり、前回の挑戦におけるリザルトが表示されている。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

「アレが引けなかったから」、「今回は運が悪かっただけだから」なんて言っていたらこういうゲームはうまくならない、なんてことはわかっている。それでもやっぱり、本作は圧倒的に運要素が大きいと思うのです……。

そして、ぶっちゃけボスの大半が(言葉を選ばずに言うならば)"クソゲー"寄りの能力であること。敵の能力とこっちの構成がうまく噛み合ってしまうと、その場のプレスキルだけではどうにもならず完全に封殺されることがある。

まあそれはひとつの戦略に賭けるようなビルドを組んでいる側にも責任がある(封殺されたことによる不満は募るとはいえ)。問題は"なにをしても絶対に不利益を被る"タイプの能力があること。

『Balatro』のゲーム画面。“歯”というボスと戦っている。

©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

たとえば上の写真の"歯"というボス。こいつの能力は、カードをプレイする(場に出す)たびに所持金を削るという非常にイヤラシイもの。所持金はショップでの購入に使うほか、一部ジョーカーの能力を強化してくれる非常に大事なリソースなので、否応なしに所持金がゴリゴリ削られるのはめちゃめちゃにツラい。

さらにはディスカード(カードを捨てて引き直す)ことを封じてくるタイプのボスもいる。「手元にあるカードのどれを残してどれを交換すべきか?」という本作の戦略性をズッパリと切り捨て、引いてきたカードによる勝負を求める、じつに男らしいボス……なんて言えればいいのだが、つまるところ運ゲーが加速するだけである。

『Balatro』のゲーム画面。ディスカードができない、水と呼ばれるボスと戦っている。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

まあディスカードを封じられたうえでどう立ち回るかも大事ではあるんだけど。個人的には運要素がより増えただけでは? という所感。

こういった、自分のプレイスキルではどうにもならない運要素は非常に多い。「カードゲームは理論と確率でガッチガチに組み立てるのが楽しい!」という諸兄には正直おすすめできない部分だ。

逆に「気楽にプレイしたい」とか「あんまり確立とかよくわかってない」なんていう人にはうってつけ。先にこのゲームを"カジュアルなポーカー"と称したが、その理由はこういった運要素の強さにもある。

『Balatro』のゲーム画面。ボスの効果をジョーカーの効果で打ち消そうとしている。
©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

理不尽なボスのデバフを無効化するジョーカー、という対抗策もある。とはいえ結局こいつを引けるかどうかも運次第なのだが。

カジュアルにポーカーとデッキ構築ローグライクの楽しさが味わえる

総じて、本作は"運要素の強さをどう見るか"というところが評価のわかれる点だろうか。全体的なゲームとしての出来栄えはすごく良くて、なかでもポーカーとデッキ構築型ローグライクという2要素の掛け合わせ方は素晴らしく、同ジャンルのほかタイトルと比べても見劣りしない……どころか、本作特有の輝きをこの上ないほどに放っているといえるだろう。

王道のローグライクな遊び心地が好きな人にとってはあまりハマらないかもしれないが、筆者みたいな「なんかうまい"引き"をして脳汁出したいです」というなんちゃってローグライクゲーマーには本作はピッタリだった。もちろん「ふつうのデッキ構築型ローグライクは飽きちゃった」なんて人にもうってつけだ。

©2024 LocalThunk and Playstack Games. All Rights reserved

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