長所
- 情報把握が要となるバトルの緊張感と達成感
- 追加されたストーリーの読み応え
- 世界中の悪魔たちが個性たっぷりなデザインで登場
- 緊張感を煽るBGMと爽快感のあるSE
短所
- RPG初心者にはやや難しいバトルシステム
- 追加要素はあるが、序盤・終盤はオリジナル版と同じマップが広がる
- オリジナル版(創世の女神篇)のストーリーには手が加えられていない
世界各国の神や悪魔、伝説の英雄から都市伝説のばあちゃんにいたるまで、さまざまな存在が跋扈(ばっこ)する世界で、それらを仲間(仲魔)にして戦い抜く『真・女神転生』シリーズ。
そのナンバリングタイトルの第5作目としてリリースされた『真・女神転生V』(2021年)をベースに昇華させたのが、2024年6月発売の『真・女神転生V Vengeance』(以下、『真VV』)だ。
『真VV』では、登場する悪魔が追加されたのをはじめ、各種システム面がブラッシュアップ、またオリジナル版とは異なる展開とバトルが味わえる新ルートが実装されている。
新ルート"復讐の女神篇"では、重要な存在となる4人の女魔・"カディシュトゥ"たちの手ごわさも相まって、オリジナル版をプレイした人でも気を抜けない戦いが楽しめる。
"復讐の女神篇"におけるストーリーの魅力について触れるまえに総括しておくと、本作はシステムまわりの触り心地が大きく向上しており、よりプレイヤーが遊びやすい気配りが尽くされている。その一方で、カディシュトゥたちとの戦いは初見で突破できないことも多く、何度も敗北しながらも「これが『真・女神転生』シリーズの醍醐味だ!」と頬が緩んでしまった。
序盤こそ、オリジナル版で見慣れたフィールドを歩く場面も多いが、空中を滑るように移動する新たな探索要素"マガツロ"の追加や、新サブクエストの登場で細かな変化も感じられ、中盤になると完全新規のマップが登場し、探索面にも新しさが感じられる。
そして何より、より愛着を持ちやすくなったキャラクター描写、物語と一緒にプレイヤーのテンションもクライマックスを迎える激アツな展開など、"復讐の女神篇"はシナリオ面もガッツリ楽しめる。語弊を恐れずに言うならば、ある意味で『真・女神転生』シリーズらしからぬ王道のアツさがあるのだ。
もちろん、"アトラス製RPG"らしい気遣いと殺意に満ちたバトルも魅力のひとつ。そんなバトルとストーリーの2軸で本作のレビューを行いつつ、物足りなさを感じた部分についても触れていきたい。
情報が勝敗を分ける、容赦ない殺意に満ちたバトル
いわゆるターン制コマンドバトルが展開する本作では、敵の弱点を突くかクリティカルを発生させるかにより行動回数が増加する、"プレスターンバトル"が採用されている。弱点攻撃による行動増加は敵味方ともに適用されるルールで、攻めるうえでも守るうえでも敵味方の弱点や耐性を把握することが肝要になってくる。
プレスターンバトルは、『真・女神転生III』で登場して以降、『ペルソナ』シリーズなどでもおなじみのシステムだが、『真・女神転生』シリーズではペナルティがより大きいのが特徴だ。
弱点を突くことで増加する行動回数は1回だが、敵に攻撃を避けられたり無効化されたりすると行動回数は2回減少、吸収や反射された場合は残り行動回数に関係なくターンが終了してしまう。攻撃を回避されるだけで行動プランが大きく狂うが、属性対策を練ればノーダメージでの突破も狙えるなど、メリットもデメリットも大きい分、緊張感と攻略の楽しみを与えてくれる。
仲間にできる悪魔たち(仲魔)はそれぞれ異なる弱点やスキルを持っており、敵の弱点を突ける仲魔は相手のスキルが弱点になることも多い。道中での戦いはもちろん、とくに強敵との戦いにおいてはいかに相手の弱点を突き、味方の弱点をカバーしながら戦うかが重要だ。
弱点を突かれるとザコ戦ですらゲームオーバーの危機に陥ることもあるが、相手が使う属性や弱点を理解してしまえば、低レベル攻略で完封勝利を狙うこともできるのがプレスターンバトルの面白いところ。
『真VV』ではレベル差によるダメージの増減などが緩和されており、レベル上げを強いられるようなこともなくなっている(筆者はもともとレベル上げが好きなので気にならなかったが、強すぎるレベル差補正を問題視するプレイヤーも多かった)。
"写せ身"と呼ばれるアイテムを使えば、主人公や仲魔のスキルをカスタマイズすることも可能。主人公にいたっては各属性の弱点や耐性といった防御相性を写すこともできるので、ボスに応じて耐性を切り換えていけば戦いはかなり楽になる。
今作は仲魔が生き残っていても、主人公が倒れると即ゲームオーバーとなる。敵の攻撃が偶然主人公に集中したり、弱点を突いた際に即死効果が確率で発動する呪殺・破魔属性のスキルであっさり即死させられたりと、唐突なゲームオーバーを迎えることはそう珍しくない。
こう書くと厳しいように見える、というか対策を立てておかないと実際厳しいのだが、龍穴と呼ばれるポイントでしかセーブできなかったオリジナル版とは違い、『真VV』ではどこでもセーブができるので、リトライはかなり容易になっている。一度戦えば敵の属性や弱点も把握でき、2回目以降は事前に対策を立てられるので、1回目よりも戦いやすくなるはずだ。
とはいえ、システムが親切になった反面、「じゃあ遠慮はいらないな」とばかりに殺意あふれるバトルが用意されており、一戦一戦の緊張感がアップしているようにも思える。敵が本気で攻めてくるぶん、情報アドバンテージを活かして敵の攻撃を無効化し、まともに行動させずに撃破したときの快感と達成感は格別だ。
クライマックスにプレイヤーの気持ちも頂点を迎えられるストーリー
オリジナル版『真・女神転生V』の時点でバトル面については高い評価を受けていたが、一方でストーリーについては各キャラクターの掘り下げが弱く感情移入しにくい、といった声も多かった。そこを補ったのが、『真VV』最大の追加要素でもある"復讐の女神篇"のシナリオ。
都内に住む高校三年生の主人公は、ある日謎の事故に巻き込まれ、荒廃した東京で目を覚ます。突如として現れた悪魔に襲われたところを、アオガミという謎の男に助けられ、その手を取った主人公はアオガミと融合、禁忌の存在"ナホビノ"に変貌を遂げる。そして力を得た主人公は、悪魔や神々との戦いに身を投じることになっていく……という物語だ。
物語の始まりはオリジナル版、つまり『真VV』で言うところの"創世の女神篇"と変わらないが、"復讐の女神篇"では新たなキャラクターとして"尋峯(ひろみね)ヨーコ"という少女が登場する。彼女との関わりによって各キャラクターが“創世の女神篇”とは違った決断を下していき、最終的に物語はまったく異なる結末を迎える。
『真VV』では、ヨーコとの会話をはじめ、各キャラクターの心情変化を感じさせる描写が加わっており、これまで神々や悪魔に焦点が当たりがちだった物語が、人間サイドにフォーカスを当てた印象になっている。これによって各キャラへの感情移入もしやすくなり、物語としてもより楽しみやすくなった。
初めて本作の世界に触れる人が遊んでも楽しめるであろう物語になっているのはもちろん、オリジナル版をプレイした身としては、"創世の女神篇"の物語を知っているからこその面白さもある。
とくに序盤の山場、主人公たちの学園が悪魔に襲撃されるシーンは印象的だ。大まかな流れこそ"創世の女神篇"と同じだが、重要な局面でメインキャラクターのひとり・"磯野上(いそのかみ)タオ"が新たな決断を下し、物語の展開も変化を見せる。
ここはヨーコの存在が如実に影響を与えた部分で、彼女との会話をきっかけにタオが一歩踏み込んだ決意をしたからこそ、物語が分岐する場面となる(上記の画像はそのときのヨーコの発言)。
オリジナル版をプレイしたときに、「こうなってくれたらよかったのに……」と思っていた部分が、見事にそのような展開になっており「それを待っていた!」と心が湧きたったもの。が、そのままキレイには終わらせないところが"さすがアトラス"であり、"おのれアトラス"でもある。希望を垣間見て舞い上がった直後に衝撃を叩きつけられるジェットコースターぶりは、オリジナル版を遊んでいたからこそ味わえた感情だ。
主人公とともに悪魔たちとの戦いに巻き込まれた同級生たち、主人公と融合し二心同体となったアオガミ、そして新たに登場したヨーコなど、キャラクターたちの描写が丁寧になってより人間味を感じられるようになったぶん、物語終盤の盛り上がりも別格だ。
個人的な印象として、『真・女神転生』シリーズでは人間模様も描かれる一方で、神々や悪魔の戦いが描かれることもあり、少年マンガ的というよりは神話的な、一定の温度感や距離感を保った物語といった印象があった。その意味で、"復讐の女神篇"はある意味で意外な展開を見せてくれた。
物語の後半、主人公は圧倒的な力を前に敗北を喫し、仲間を失ってしまう。これは"創世の女神篇"にはなかった展開で、それ自体もけっこうショックなのだが、その喪失を乗り越えていったからこそのアツさが、物語のクライマックスに用意されているのだ。絆や仲間といったワードこそ前に出ていないものの、王道のアツさを感じさせる展開には、「『真・女神転生』でこんな物語が描かれるとは」という意味でも衝撃を受けた。
終盤の盛り上がりでこちらのテンションも最高に盛り上がる、RPGとしても物語体験としても非常に気持ちのいい展開が待っているので、オリジナル版のストーリーが物足りなかった、という人にこそプレイしてほしい。
新規シナリオがいいだけに求めたくなるものも
『真・女神転生』シリーズは戦闘バランスが絶妙な分、コマンドバトルRPGに慣れていない人にとってはハードルが高い面もあり、今作についてもそれは同様と言える。とは言え、無料DLCで追加された"Safety難度"やデフォルトで実装されている"Casual難度"では被ダメージが減り、与ダメージが増えるので、バトルの難度はある程度調整可能だ。
前述のとおり、セーブがどこでもできるようになったこともあり、一度敗北してからのリトライもやりやすくなっている。その点でも難度は緩和されていると言える。
アトラス製RPGのノーマル難度はいわゆるノーマル難度ではない、というのはよく言われることだが、だからこそボスを倒した達成感が大きくなるのも確かなので、何度か敗北するのは当たりまえ、というくらいの気持ちで挑んでみてほしい(キツければもちろん難度を下げるのもアリだ)。
ここからは、オリジナル版『真・女神転生V』を遊んだプレイヤーとして気になった部分になるが、とくに序盤は同じマップを攻略している感がやや強いのは否めない。
離れた地点を結ぶ移動要素"マガツロ"が追加され、オリジナル版では到達できなかった場所にも移動できるようになり、新規悪魔のサブクエストも用意されている。既知のマップでもそういった新しさがあるので退屈はしないが、物語が大きく変化するまでは見知った要素が多いのも事実。
とは言え、筆者はレベル上げが好きでじっくり進めるタイプなので、余計にそういった印象が強くなった可能性もある。どう感じるかはその人のペース次第、と言っては元も子もないが、筆者と同じように既知感が強いと感じた場合は、少し速足で進めるくらいがちょうどいいかもしれない。
新たに描かれた"復讐の女神篇"でキャラクター描写などがブラッシュアップされた一方で、オリジナル版の物語である"創世の女神篇"については、システム面の改修は反映されているもののストーリー面の変化はない。こちらにおいても、キャラクターの深掘りを追加したシナリオを読んでみたかった気もするが、"復讐の女神篇"に満足したうえでそれ以上を求めるのは贅沢がすぎる、とも思える。
オリジナル版をプレイしたことがない人にしてみれば、"復讐の女神篇"と"創世の女神篇"、ふたつのルートにそれぞれマルチエンディングが用意されているというボリュームはなかなかの豪華仕様だろう。
一度クリアーしてからの周回プレイでは主人公の能力や仲魔を引き継いでサクサク進められるので、1周目では数十時間かかったところを数時間でエンディングまで進めることもできる。引継ぎ要素は選択できるので、敢えて能力を引き継がず、再び成長を楽しむ選択肢が用意されているのもうれしいところだ。
『真・女神転生V』を遊んだ人も、シリーズ未体験の人も、遊ぶべし!
魔界と化した東京を舞台に、悪魔や天使(いわゆる優しい天使のイメージとはけっこう異なる)、古今東西の超常的存在が登場する本作。RPGとしての遊び応えはもちろん、悪魔のラインナップやデザイン、各種会話シーンでのセリフも魅力的であり、世界各地の伝説に触れる作品としても楽しめる。
主人公が力尽きれば即ゲームオーバーなこともあり、確かにバトルの難度は高い。しかし相手が容赦ないからこそ、対策がハマって勝利できたときの達成感も大きくなるというもの。
バトルシステムだけでなく、心地よいクリティカル音やボス戦の緊張感を煽るBGM、主人公の専用スキルをはじめとした各種演出など、テンションが上がるポイントが随所に用意されていることもあり、バトルの心地よさは抜群だ。
"復讐の女神篇"はシナリオの盛り上げかたがストレートなこともあり、本作は『真・女神転生』シリーズに触れたことがない人にも勧めやすい一本になっている。オリジナル版をプレイしたけど『真VV』には触れていない人、そもそもオリジナル版をプレイしていない人も、ぜひとも本作のバトルとストーリーを味わってほしい。
ⒸATLUS. ⒸSEGA.